茶都・月の宴−1
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(秀麗の旅立ちでもあり、私の旅立ちでもあるわね。とはいえ茶州…心配ではあるけれど)
出立式の立派な秀麗の姿を見ながら、春麗は思う。
悠舜には早馬でも手紙を出した。
燕青がいない間、悠舜が茶州を一人で切り盛りしている。
黎深と鳳珠を抑えて状元及第したのだから能力は高いだろうが、如何せん茶州だ。
茶太保亡き後、また茶家はガタガタしているとも聞く。
身体を労る内容と、秀麗を頼むということと。
自分が貴陽からできることは全てやった。
(後は、私はここで、私のやるべきことをやるだけね)
春麗はわかっていた。
いまだ女人官吏について反対している人も多いことを。
中央に残る春麗は、それを一手に引き受けることになるのだ。
不安がないといえば嘘になる。
いや、ある意味不安だらけだ。
(でも…きっと近くで支えてくださる方もいる)
父様や黎深叔父様、珀明さん、景侍郎、そして…
(鳳珠様…)
心の中で思い浮かべて、晴れやかな顔で前を向いた。
「そろそろ帰るか」
定刻を一刻ほど過ぎたときに、鳳珠は春麗に声をかけた。
この時期の戸部はあまり忙しくないので、他の官吏は比較的早めに帰っている。
片付けを済ませて荷物を持つ。
鳳珠は戸締りをした後、ひょいと春麗の荷物を半分もった。
「えっ?」
「少ないとはいえ、それでも重いだろう?持ってやる」
「でも、そんな申し訳ないです、私物ですし…」
「いやか?」
「いえ、そういうわけでは…」
「なら、もたれておけ」
と言って、すたすた歩いて行く。
慌てて、後を追いかけた。
俥に揺られているうちに、少しずつ春麗は緊張してきた。
鳳珠はクスリと笑って仮面を外す。
「緊張でもしてきたか?」
「え、ええ…」
「大丈夫だ。すでに話はしてあるし…みんな喜んでいたぞ」
春麗は驚いて顔を上げる。
「そう、なんですか?」
「あぁ、男主人の邸だからな、特に侍女たちが、年頃のお姫様がくるとあって、世話するのを楽しみにしているようだ」
「そんな…自分のことは自分でしますし…あ、あの、鳳珠様のお手伝いもできる限りさせてくださいね」
鳳珠はちょっと驚いたように眉を上げたが
「あぁ、頼む。無理はしなくていいからな」
と嬉しそうに答えた。
お邸に着くと、家人が出迎えてくれた。
「話をしていた、紅春麗だ、よろしく頼む」
「初めまして、紅春麗です。本日よりお世話になります、よろしくお願い申し上げます」
貴族の子女の礼で挨拶をする。
「こちらこそ、よろしくお願いいたします」
家令と侍女頭と思しき人が、代表して挨拶をする。
「こちら、後ほど皆様で」
持ってきたお菓子を渡す。
貴陽で1、2を争う評判の限定菓子だ。外してはいないはず。
「まぁ、お気遣いいただきありがとうございます」
侍女頭は包みを見て何かわかったらしく、嬉しそうに受け取った。
「先に、室に案内してやってくれ。荷物が片付いたら一緒に食事をしよう」
と鳳珠が代わりに持っていた荷物を侍女に渡した。
「はい」
「瑞蘭、頼む」
「かしこまりました、姫様、こちらへ」
(ひ、姫様!?)
ビクッとした春麗を、鳳珠が仮面の下で笑って見送った。