はじまりの風−1
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(次は吏部と府庫、吏部で黎深叔父様を捕まえて、府庫でお茶をするように誘導すればいいかしら。ついでに本をもらえれば一度ですむ)
と春麗は次の予定を立てて、吏部に向かう。
吏部に近づくと、今度は怒声が聞こえる。
何をいっているかわからないが、こんなところに足を踏み入れたくない。
(絳攸兄様もいると聞いていたけれど、ここで叫んでいるのかしら?)
と不安になるが、ギュッと書簡を握りしめて「失礼いたします」と声をかけ中に入る。
が、誰一人気付く人もいなく、罵声やら怒声やら書簡が飛び交っている。
「こ、これは…」
思わずずりっと後ずさると、知らないメガネのおじさんが「悪鬼巣窟の吏部へようこそ」と怖いことを言ってくる。
(悪鬼巣窟…まさに)と思った時にはメガネのおじさんはいなくなっており、とりあえず尚書室へ向かい、
「失礼いたします、こぶからの書簡をお持ちしました」
といって入室する。
扉を閉めて再度「失礼いたします」と声を出す。
「春麗!!??」
と、部屋の奥から猛ダッシュで黎深が飛び出してきて、抱きしめられた。
「春麗!!よく来たね!!…ってなんでそんな格好なんだい?」
「黎深叔父様、外朝で動くには侍童の格好しかないでしょう?今の僕は、前と同じ”天寿”と名乗っています。だから、紅吏部尚書も”天寿”って呼んでくださいね」
「天寿、か。わかった、天寿」
慣らすように黎深は何度か呟く。
「今日は戸部のお遣いできました。では、戸部尚書からの伝言をお伝えします。”貴様らが勝手に壊した備品に払う金はない阿呆が”とのことでした。こちらはおかえしいたします」
といって、書簡を渡す。
「なんであいつの手伝いをしているのだ!!」
なんとなくイメージしていた通り、ぶりぶりと怒り出す。
「なんか歩いていたら景侍郎にぶつかってしまって、そのまま手伝って欲しい、ってお願いされました」
少しも盛ることなく、起こった事実を伝える。
”景侍郎”の言葉がよかったのか、黎深はそれ以上、怒ることはなかった。
「ところで、なんで黄尚書はあんな仮面かぶってるんです?昔、一緒に来られていた鳳珠様でしょう?」
思い出して、疑問に思っていたことを確認する。
「あぁ、あいつは百合に顔が理由で振られて、仮面を被るようになってしまったんだ」
「百合叔母様に?」
(絶対にこの説明、雑に違いない、今度あったら百合叔母様に確認しないと…)
春麗の疑いの眼差しに、「嘘はついておらん」と黎深は視線を逸らして言った。
「ところで春麗」
「天寿です」
「あ、天寿、ゆっくりできるのだろう?お茶をしよう??」
「黎深叔父様、この山積みの仕事、なんなんですか?叔父様が尚書と伺って、仕事のできる素敵な尚書様だと思っていたのに・・・」
吏部官吏の荒れっぷりと尚書室の仕事の山を見て、大方の推察はできた。
「こ、こんなの、すぐ終わるよ」
「僕、これから府庫にいかなきゃいけないんです。だから今日はお仕事が終わるまで待てません」
「危ないから送って行くよ!」
「では、そのあと、明日までにお仕事片付けてくれますか?」
チラリと上目遣いで見ながら言う。
「もちろんだとも!」
「では。明日来たときにお仕事が終わっていなかったら、二度と叔父様とはお茶しませんからね」
「う・・、わ、わかった。約束する。明日の午までに片付けよう!」
「では、府庫にいきましょう」
と言ったら、黎深は手を取って府庫に向けて部屋を飛び出した。
笑み崩れて侍童の手を引く”怜悧冷徹冷酷非道な氷の長官”の姿に、吏部官は機能停止した…