序章
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”はじめに言葉があった”
紅邵可の双子の娘、春麗と秀麗のうち、春麗は”泣かない姫”であった。
そして、”生まれた時から言葉を持った姫”であった。
しかし、話したことは一度もなかった。
つまり、話せないフリをしていたのだ。
秀麗を見ながら、「あー」「うー」としか声を出さなかった。
”表向き”春麗が話せることを知っているのは誰もいなかった。
2才になる前に、春麗は母親の薔君のところにトコトコ歩いていく。
「おぉ、春麗、来たか。妾に話があるのであろう」
薔君は知っていた。
春麗を抱き上げ、別の室に移動し、二人だけになる。
じっと母親を見つめていたら、
「春麗、そなたは言葉を持っているであろう。妾はそなたが生まれた時から知っておった」
「は、はさま…」
「良い。妾が知らぬことはないからな。そなたは大きな力を持っている。しかし、それを決して他の者に悟られてはいけない」
コクリ、と春麗はうなずく。
「それを知られると、そなたは利用されるか、殺されるかであろう。妾とは違う力だが、この世の者たちにとっては、春麗の力の方が魅力的に映る」
「母様、わたくしの力とは?」
「言葉を持って生まれたこと、文字が読めること、それはいつかどの者たちも追いつく。だがもう一つ…」
薔君は少し逡巡する。
「春麗はわかっておるであろう。妾がこの先、どうなるかを」
「!!」
唇を真一文字にして、春麗は下を向いた。
「そうじゃ、そなたの力は”将来が見えること”じゃ」
頭をひと撫でする。
「春麗、一つだけ言っておく。見たくないものは見なくていい。今はまだ全て見えてしまっているだろうが、大きゅうなったら調整できるようになるはずじゃ。”見たくないものは見なくていい”と念じるだけでよい。心配するでない。」
春麗はコテン、と首を傾げた。
調整など、できるのだろうか?
見たくなくても勝手に見えてしまう、この力が。
「母様、お願いがございます」
「なんじゃ」
「わたくしは…秀麗とわたくしは、わたくしの方が”姉”ですよね?」
「そうじゃ」
少し考えるようにして、口を開く
「今日から、秀麗を”姉”にしてください」
「・・・それは、その方がいいとそなたが判断したのじゃな」
「はい」
薔君は少し考えてから
「わかった。背の君には妾から伝えよう」
と承諾した。
「あともう一つ…勉強をさせてください」
これにはため息をつく。
「春麗、そなたはまだ赤子とたいして変わらぬ。いきなり本を読んだら怪しまれるであろう?」
「でもっ」
これから起こるであろうことのために、知識はいくらあってもいい。
力も…
母以外の意識が秀麗に集中している。
この先もずっとそうだろう。
であれば、知識も力も必要になってくる、と春麗は考えたのだ。
「・・・そうじゃな、一日に一刻だけ、書庫の中でなら良い。使用人に何か言われたら、”読めないけど絵みたいで面白い”とでも答えておくのじゃな」
「ありがとうございます」
それからもうひとつ、確認しておきたいこと・・・
「母様、あの、父様に、言葉と力のことは…?」
「それも、妾から話しておく。ただ…黎深殿はすでに知っておろうの」
母はフッと笑ってなんでもないことのように答えた。
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