神様が「ゆめがね」を作る時

真っ白な部屋。いるのは2人と1匹。
1人は裾を引き摺るような長い衣をまとっており、何やら作業机に2人と1匹は面している。

「――さて、仮想空間で活動するとの事ですが」

長い衣をまとった人物は、自身の両側にいる1人と1匹に声をかける。
1匹は目の前に置かれた様々なグラスに注がれた色とりどりの液体に興味を持っており、もう1人は大人しそうに真ん中の人物に視線を向けていた。

「……見た目に何か要望は?」

すると1匹が元気良く答える。

「はい、はい!秋田犬くんみたいなもふもふの毛皮が欲しいです!!」
「悲しそうにしている人が抱きしめた時、安心出来るね」

長い衣をまとった人物は、キラキラと細かく光る白砂のような液体を目の前の鉢に注ぐ。

「柴犬先輩みたいにキリッとした見た目が良いな!」
「眉毛可愛いよね」

続いて細長い試験管のようなグラスを手に取り、先程の鉢へ少量注ぐ。

「あとね、サモエド先生みたいなニコニコ顔が欲しい!」
「恐がらせなくて良いね」

そして丸底フラスコのようなグラスの中身を半分注ぐ。

「……ほぼ犬みたいな要素の外見にしかなりませんが」
「あー……そしたら、目は閉じたままにしてもらう事って出来ますか?」
「理由を述べてもらっても?」
「…………自分に向けられる視線が怖いって人いるじゃないですか。私は、1時の心の避難場所になるならちょっとでも誰かが安心出来る見た目が良いんです」

大人しくしていたもう1人が、少々不安そうな表情を浮かべながらも、材料を混ぜ合わせていた人物にハッキリと告げる。

「……なら、幸せそうに笑っているえびす顔にしておきましょう。目は細められていますが、相手に大事なことを伝える時は貴方達の本気を伝えられますからね」

長い衣の人物の提案に、ほぼ無表情だった大人しいもう1人が顔を輝かせる。

「そう、そうなんです。大事なことは、本当に、真剣な表情をしなくちゃ伝わらないんです」
「えぇ、そうでしょうとも」
「優しくて、話しかけやすい見た目や雰囲気でも、相手に伝わらなくていじめられたり傷つけられるのは、もう沢山です。優しさは弱さでも甘さでも無いんです」

熱のこもった語りに、長い衣をまとった人物は静かに視線を机の上に戻し、ガラスコップに入った透明な液体を注いだ。
するとだ。

「へっぶしょんッッッ!!!!」

宙に待っていた粉が鼻腔をくすぐったのか、1匹が盛大なクシャミをする。
驚いた2人がグラスをひっくり返す。

「「あああああああ!!」」

長い衣の人物は慌てて鉢から倒れたグラスを取り出すのだが、既に手遅れだった。大人しいもう1人はなにかグラスを拭くものが辺りに無いだろうかとキョロキョロ見渡すのだが、何も無い。

「……ごめんなさい」
「……大変な事になりましたね」
「なっ、何が起きたんですか」

机の上に置き直したグラスは既に乾いている。

「……外見の事なんですが」
「はい……」「うん!」
「500メートル級の毛玉の大きさになってしまいました」
「500メートル級のデカさ?!?!」
「わぁい!」
「ついでに副作用で好奇心にも影響が……」
「出ちゃったのォ?!?!」

あのまま順調に配合を続けていれば、最終的に小型なポメラニアンかつ小柄な大人しい見た目の人物像が出来上がっていたらしい。
零れた液体の量が多すぎたせいでかなりのビッグサイズに改変されてしまったが。

「ちなみに完成図はこうなる予定でした」
「……耳、4つありませんか?これ」

描き出した完成予定図には、クセがかった茶髪に犬の耳が生えたひょろりとした人物がいた。髪色と同じ麻呂眉をしており、閉じられた糸目と笑みを浮かべているような口元から無害そうな柔和な印象を受ける。

「これは髪の毛です」
「髪なんだ……」
「ちなみに感情と連動して動きます」
「すげぇ」
「尻尾!尻尾は無いの?ねぇねぇ」
「尻尾はいらない。チョロいって思われたくないし、そういうので判断されたくないから」
「無いのかぁ」
「私はちゃんと、人間でいたいの」

大人しい人物が1匹を抱きかかえ、要望を伝えながら細かな調整をしていく。
――こうして新たに、仮想空間へ新しい命が生まれたのでした。

「……新しい身体。これでなんだって出来るね!」
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