1日目

「あれ?何だろうこの花。ヒマワリにしちゃあ早咲きすぎるんだよなぁ」

 いつもの仕事の帰り道。通勤路で通っている道の端に知らない花を見つける。
 見た目はとてもヒマワリなのに、春である4月のこの時期に咲いているヒマワリだなんて見た事も聞いたことも無い。
 足を止め、しゃがみ込んで道端に咲いているその花をじっくりと観察してみる。

「……?変わった花だなぁ……?薄暗いからかもしれないけれど、花芯の部分が変な気がする」

 首を傾げつつ、茎や葉、花弁に手を伸ばし、指先でなぞるように触れてみる。
 花弁はツルツルとした手触りで、上質の紙を触っているかのようだった。いつ頃咲いたのだろうか。蕾がついていたなら、毎日通っているこの道で私が見逃すはず無いのに。続いてチクチクする茎をなぞり、ザラザラとした葉の表面を撫でる。触れていて、小学生の頃学校で育てていた大きなヒマワリの姿を思い出した。それに比べれば膝下ぐらいの背丈しかない高さなのだが、どうも素直に「ヒマワリ」と呼んでいいものか分からない見た目である。

「…………あ、そうだ!こういう時の為の画像検索だよね!」

 尻ポケットからスマホを取り出し、正体不明の花の姿を写真に収める。広いネットの海に流石に何か情報くらいはあるんじゃないかと、写真を撮って検索をしてみるのだが、どれもこれも一般の家庭で栽培されているようなヒマワリの花しか表示がされなかった。おかしいなぁと顔に纏わりつく髪を払い、不可思議な花の咲く傍へ行儀悪く腰を下ろす。
 もう少し観察を続けた方が良いのだろうか。いやしかし住宅街の道端で座り込む若い女を見たら近隣住民は何と思うだろうか。変に声を掛けられる前に、家へ帰宅して記録をまとめた方が良さそうだ。

「……そういえば群生もしていなければ、花の香りがしないのも不思議だね……?」

 顔を近づけ、くんくんと匂いを嗅いでみるのだが、周囲の植物の香りだとか、根を下ろしているであろう土の匂いしかしない。この花から香りがするというのが一切ない。不思議だ。繁殖する為の媒介手段はどうなっているのだろう。どうやって自然界を生き残ってきたのだろう。興味深い。好奇心が抑えられない。
 まじまじとその不思議で不可解で不自然な花を観察し直す。

「……あ、そっか!この花芯の部分口に見えるんだ!違和感解決!」

 変だと感じていた正体のひとつを自力で解決する。この、「気づいた」「分かった」という刺激と快感が何よりも好きだ。普段から学ぶ事や勉強が嫌いじゃないのもそのためだし、ひとつの道を極めようと職人の道に足を踏み入れた時だって、私のこの特性はおおいに役立っている。
 それに、とても楽しい!人生どんな辛い時だって、楽しむ心の余裕とやらが大事なのだ。
 ぽんと手のひら同士を合わせ、難問を解いた時のような一種の爽快感に自然と口角を上げニッコリとしてしまう。

「そろそろ帰らないと流石にまずいかな……」

 スマホで現時刻を確認すると、10分以上が経過していた。慌てて尻についた土ぼこりを払い落としながら立ち上がり、不思議な花が生えている場所をしっかりと記憶する。明日もここを通る事だし、まだまだ分からない事、知らない事が沢山ある。この好奇心を満たす為には細かい情報を集めなくてはいけない事だろう。
 それに、開花しているという事はしばらくすれば種子が採取出来るかもしれない。それを持ち帰って自宅で育ててみるのもいいかもしれない。

「……」

 ワクワクしながらその場を立ち去ろうとしたのだが、何だか少しだけ胸の奥がザラザラするような感じがする。何かが引っかかるような、そんな感じがする。
 そういえば不思議な花に別れ際の挨拶をしていないからかと思い直す。

「……また明日ね」

 花が返事をしてくれるわけでも無いのだが、風も無いのに揺れてコクリと頷いたように見えた。
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