【報告書】

 ――施設内エントランスホール。

「――あれ? ゆめがねさんじゃーん」
「お、比奈田さんじゃないですか。お久しぶりです」
「今日から復帰? てか、いきなり休職してびっくりしたよ」
「オァーッ……この度は大変お騒がせしたようで……!」
「……うん、まぁ、色々あったねー。怒られるから詳細話せないんだけどさ」

 施設の外まで、後は自動ドアを潜るだけ――といったところで声が掛かる。
「比奈田さん」と呼ばれた男は、白衣のポケットに両手を突っ込みながら夢原に近づくと「大丈夫だった?」と心配そうに顔を覗きこんだ。

「何が『大丈夫だった?』なのか全く分からないんですけど、取り敢えずは元気ですよ」
「そっか」
「復帰するのは明後日からなんですけど、今日は取り敢えず新しい上司に挨拶をと思って」
「……ふーん」

 比奈田は何やら考え込むように顎に手を当てると、夢原から少し視線を外してどう言葉をかけるか悩んでいるようだった。

「比奈田さん、お仕事戻らなくて大丈夫なんですか? 確か今お昼休憩も終わりの時間ですよね?」
「あ、やっべ」
「積もる話はまた明後日にでもどうです?」
「うーん、そうねぇ……」

 比奈田は何やら話したいことがまだあるのか、時間を気にしながら「どっか夜予定空いてる?」だなんて声をかけた。

「『夜パフェ』という単語に魅力感じない?」
「感じちゃう」
「俺甘いもの好きだし一人で行っても良いんだけどさ、復帰祝いにどーよ」
「はわわ……」
「一人前予算三千円ぐらいする高さ三十センチオーバーのパフェなんて、こういうときぐらいしか大義名分無くない?」
「ホントにそう! 行く! 行きたい!」
「決まりー。じゃあ、明後日出勤した時にでも行きたいお店教えてよ」
「ヤッター! 約束ですよ!」
「はーい、じゃまたねぇ」

 今にもその場でピョンピョンとジャンプする勢いでキラキラと顔を輝かせると、夢原は勢いよく手を大きく手を振って比奈田と別れた。足取り軽く、スキップしそうな明るい歩調で自宅への帰り道を歩く。
 ――復帰後の段取りもちゃんとついた。
 環境の変化に慣れるまでしばらく大変だろうが、「夜パフェ」という魅力的なご褒美があるのなら、五年ぐらいは平気で頑張れる事だろう。

 嗚呼、今日はなんて良い日なんだろう!!!!

 そう、ウキウキと浮き足立ちながら帰路についていると、ふととある疑問が浮かび上がった。

「……あれ? 私、比奈田さんとそんな話した事ないのに、あんなに仲良かったっけ?」
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