【報告書】

「……」

 とある施設の研究室内の一室。
 備え付けの事務机の上に置かれたノートパソコンの液晶画面を黙って見つめながら、難しい表情をしている男が深いため息を吐く。キーボードの上を先程まで順調に走っていた指先は完全に動きを止めており、代わりと言っては何だが、その眉間には自然と深い皺が寄せられつつあった。
 男はかけている眼鏡の位置を直すと、椅子の背もたれに体重を預けて深く腰掛ける。
 少し休憩した方がいいのかもしれない。そう思いながら。

「――失礼します、あの、源内主任、いらっしゃいますか……?」
「……いるよ。どうぞ入って」

 控えめなノックがした後、若い女性の声がドア越しにくぐもって聞こえる。
 室内で作業をしていた男、源内は姿勢を正すと来訪者に入室を促した。

「……君が夢原さん?」
「そうです。えーと、復帰は明後日からという話を入院中に聞いてはいたのですが、人事入れ替えがあったと事前説明がありましたので挨拶も兼ねて……」
「そう。……今度から君が所属する研究チームの主任になった、源内です。よろしく」
「改めまして、夢原です」

 源内は椅子から立ち上がると、出入口で緊張した面持ちの夢原に近寄った。
 不安そうな、恐がっている様子で夢原から「これ、皆さんでどうぞ」とおずおずと差し出された菓子袋を受け取る。
 源内は社交辞令よろしく「ありがとう」と受け取り、来客用の椅子へと促した。
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