25日目

 縺ッ繧九″お兄さんとあの駐車場で出会って、お休みの日以外は大体あの場所で縁石に並んで腰かけながらカラッカについて教えてもらっている。
 初めて会った翌日、いきなり花弁を引き千切って食べ始めた時は本当にびっくりした。『これ日替わりで味が変わるんだよ』なんて言って手渡された時は好奇心と「そんな得体の知れないもの口に入れて大丈夫なのか」という不安でかなり葛藤した。
 勿論食べた。スープやサラダ、ケーキの飾りなどに使う食用の花のように、食感はペラペラだったが美味しかったと思う。好奇心に負けた。
 が、しっかりとベーコンの味がして、「植物から動物性の食べ物の味がするなんて何事?!」と余計に謎が深まった。チョコレートの香りがする花を知っているがそれはお互いに植物性だから成立するのであって、動物性の味がするのはどういった原理になるのだろうか。それにカラッカは基本的に無臭だ。分からない。
 まぁ、そんな感じで縺ッ繧九″お兄さんから少しずつカラッカについての理解を深めているのだが、いろんなことを知る度に余計に謎が深まっていく。
 ――今日も集まって、コンビニで買った紙パックのイチゴ牛乳をお互い飲みながら部活帰りの学生のように駄弁り始める。

「今日はねぇ、何聞きたいですか?」
「うーん……何かこう、新しい情報があれば私はそれだけで色々と疑問が思い浮かぶのでねぇ」
「ふんふん」
「何が良いかなぁ」

 ゆったりとした不思議な居心地の良さと妙な緊張感を感じつつ、今日は何について聞いてみようと植木鉢に植えられたカラッカを眺める。

「……オジギソウってあるじゃないですか」
「あるねぇ」
「あれってお辞儀する原理が空気枕みたいな仕組みなんですけど、」
「うん」
「それは『傾斜運動』って言って、他の植物でも似たような動きが確認されてるんですね。気温や日照時間などで花が開いたり閉じたりするのがその一例なんですけど」
「へぇー」

 カラッカの生態を自分の方で独自に調べている時に見聞きした知識。それを縺ッ繧九″お兄さんへ簡単に分かりやすく説明する。夜間でも花弁が閉じきっていないので、どういった外部刺激を与えるとカラッカは反応するのだろうか。その疑問を口にすると、縺ッ繧九″お兄さんは「なるほど?」と言って少し考え込むような仕草をして、尻ポケットからスマホを取り出すと何やら操作をしだす。

「螟「さんは何か好きな曲とかよく聞く音楽とかってあります?」
「うーん……最近だと『繧「繝ォ繝ォ縺ョ闃ア』って曲よく聞きますね。しっとりしたバラードなんですけど」
「バラードかぁ……。明るい曲はお聞きにならない?」
「明るい曲だと『蜚ア』とか?」
「あー、良いよねぇあの曲。職場に行く道中俺も聞くよー」
「私この曲使ったテーマパークでのダンスパフォーマンス動画カッコ良くてよく見るんですよね」
「いいねぇ」

 そんな感じの会話をしながら縺ッ繧九″お兄さんが曲を再生すると、ダンスをする花の玩具おもちゃよろしくカラッカが花や葉を動かして踊るような動作をした。

「……は?え、なっ、」
「カラッカってねぇ」
「はい……」
「踊るんだよ」
「踊るの?!」
「うん」
「踊っちゃうんだ?!」
「そう」
「ウワーッ!」
「……いやぁ、螟「さん本当に良い反応するねぇ」

 縺ッ繧九″お兄さんは愉快そうに笑ってから「はぁ……おもしろ」と本当に満足そうに息を吐いた。
 なんでそんなに面白がるのか理由も分からず、「どうして?」と追求したら変な雰囲気になりそうだなと考え、「別の曲を聞かせたらどんな反応をするんだろう?」と思考を切り替える。自分でも試してみるかとポケットからスマホを取り出し、様々な曲を再生してみればカラッカは色んな動きを披露してくれた。同じ曲を何回かタイミングを変えてかけてみたりもしたのだが、全部動きが違うだなんて、これは一体全体どういうことなのだろう。

「……あの、縺ッ繧九″お兄さん」
「はあい?」
「変な事言うんですけど」
「なんでしょ」
「……もしかしてカラッカって自分の意思があったりします?」
「…………」
「えっ、何で黙るんですか」
「んーふふふふふ」

 縺ッ繧九″お兄さんは愉快そう、かつ非常に悪役の笑い声っぽい声を漏らすと、肩を揺らし私から顔を背けて笑っていた。良い線いってると思うのだが、そう仮定すると「何故『意思』を持つようになったのか?」という疑問が浮かび上がってくる。
 紙パックに刺したままのストローを咥えて考え事をしていると、ようやく落ち着いたのか縺ッ繧九″お兄さんは再びゆっくりと息を吐き出してから言葉を発した。

「……あのね?」
「はい」
「面白いから内緒」
「なんでぇ!?」
「んふふふふふ」
「どうしてなんですか!?えっ、そんなに触れたらまずい部分だったりしました!?」

 ――これ以上突っ込まない方が自分の為に良い気がする。
 消化不良な気持ちになりながら、私は視線をカラッカに戻し、流した曲に合わせてご機嫌に踊りながら移動するその様子を眺め続けるのだった。
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