短編・旧サイト拍手ログ
君が狂気に堕ちたままなら、僕も共に堕ちていこう――
「逃げられないのよ? 誰も、ここからは」
君はそう言って楽しそうに笑う。自分の台詞に陶然として、笑む。
「誰も逃げられない。この塔の外は『世界』が定まってないの。だから真っ白。真っ白なところへ出ちゃったら、私たちは消えちゃうの。だから出れないの。逃げれないの。わかる?」
うん、わかるよ。そういって僕はうなずく。
君は笑う。満足そうに。
僕は君のおとぎ話に付き合おう。たとえ、永遠にここに閉じ込められることになっても。
君を失うくらいならば、僕はここに囚われよう。
(これは、盲目的な愛ゆえにみずからの自由を捨てた、少年の人生のヒトコマ)
(2010.7.5~11.4)
――愛しているよ。だから、何度でもそう囁こう。
「愛しているよ?」
この言葉を言ったのは何度目だろう? 可愛い君にこうして想いを捧げるのは、一種の儀式だ。
君は、肩をちぢませて僕をうかがう。君の体に絡みつく糸が、また増える。
それ以上糸が増えたら、マリオネットよりみじめになるね?
でも、そんな姿もかわいいよ。そんな君でも、僕は愛してるんだから。
だから、何度でも囁こう。
「ねえ、大好きだよ。愛しているよ?」
(これは、愛ゆえに、愛する人を閉じ込めた、かわいそうな少年の真心)
(2010.7.5~11.4)
貴方の幸せを願うのが、本当に正しいのかしら――?
夢を見ていたんだわ。幻想を現実だと思っていたんだわ。
誰かがかつて言っていた気がする。「相手の善を願うのが本当の愛だ」、と。
何、そんなもの? 私たちは神ではないのよ? 人間なのよ?
人間は大地で生きる生き物。清らかさに満ち満ちた天空で永遠の流れを識る存在とは、全然違うのに。
偶然、中途半端に知識を持ってしまっただけでしょうに?
だから私は、『わがまま』を言うの。
「あの女の元へ行くなんて、絶対に許さないわ――」
呪うなら呪いなさいな。罰するなら罰しなさいな。
私の悔しさと怒りを、誰が鎮められるというの?
(これは、信じていたことが虚構だと知ったせいで、服を赤に染めた女の破滅の物語)
(2010.7.5~11.4)
黒いのは嫌なの。だから、白がいいわ。
真っ白な世界。はじまりの色。何物にも染まらない色。
白は高貴なの。白は孤独なの。他の色と交わってしまっては、その存在意味が消えてしまうから。
ねえ、だから、黒色をやめてちょうだい?
私と一緒に、白になりましょう?
一緒にいたいなら、白になろう?
(そうしてまた、闇は光によって惨殺された)
(2010.7.5~11.4)
君は白で、僕は黒。
相いれない僕らは、どうして出会ってしまったのだろう。
君は無垢で、苦悩を知らない。僕はそんな君に、どうしようもなく惹かれたというのに。
けれど創世神は、僕たちが交わることを許さなかった。
光と闇が混じれば、また――世界は混沌に戻ってしまう。
ああ、けれど、僕はもう。
自分の気持ちを、抑えることができなくなってしまった。
君をさらってしまおう。誰も知らない土地で、生き物の気配がない場所で、君を僕の色に染め上げてしまおう。
拒絶しないで? 逃げるのは、許さないからね?
(そうしていつも、広い世界の小さな片隅で、光と闇は結ばれる)
(2010.7.5~11.4)