短編・旧サイト拍手ログ


「あと何年くらい待てばいいのだろうな……」

「さあな、俺に聞かないでくれよ」

「そうはいっても、聞かずにはおられん……私はいつになったらお前を攻撃できる」

「俺も、いつになったらお前に切りかかれるのか、見当がつかねえや」

「早く、戻ってきてほしいものだ」

「そうだな、早く来てちゃっちゃと決着付けてほしいよな。俺らだけじゃどうにもできないからなあ」

「全くその通りだ……」


作者に続きを書いてもらえない。自分たちの行く末は放置されたまま。

魔王と勇者は二人揃って、何度目になるかかわからない、深いため息をついた。


(2010.1.4~4.9)










(俺は、剣をとらなくてはならない……)


彼は、血にまみれた銀色の剣を再び手に取った。取るしか、なかった。

まるで、運命の女神の右手が自分の右手に乗り移って、いざなっているかのようだった。

――さあ、あなたは戦わなくてはならないのだ、と。
まるでそう、囁いているかのように。

(俺は、本当なら、もう戦いたくはない)


血が飛び、死が行き交う戦場。

生き延びるためにひたすら剣をふるうその傍らで、異様に冷めた自分がまた存在している。

一体俺は何をしているんだ? なぜ、戦わなければならないのだ?

その疑問は、刺のように彼の心に突き刺さったままだった。


(でも、俺は――)


彼は、かつての唯一無二の親友だった男の死体を見下ろした。


(こいつのために、戦わなくてはいけない)


生まれた時から傍にいて、志半ばで倒れた、この友のためにも。自分は再び剣をふるうべきなのだ。

そうだ、理由はたったそれだけで、十分ではないか。

彼は立ちあがった。頭上へ剣を振りかざす。


「まだ終わってはいない――!! 我々の歴史は、まだ潰えることはない。いやむしろ、ここからが始まりなのだ!!」


そしてその瞬間、彼は、自らの過去と名前をいっさい捨て、死んだ友の身代わりとして生きていくことを決意した。



そう、自分とそっくりの顔をした、とある亡国の若き皇子として―――

(2010.1.4~4.9)










弟の口は、不敵な笑みを浮かべていた。兄はそれを不思議に思う。

自分の部下に囲まれ、四方から剣や槍を突き付けられたこの状況で、なぜそんな表情ができるのだろうか。


「兄さん、確かにね、この国の政治を動かしているのはあなただ。それは間違いない。けれど――」


弟は顔を上げ、きっと兄を睨み据えた。

地中深くにある地熱のような、秘められた情熱を見てとれるほど、強い光を宿している瞳だった。


「この国の歴史を動かすのは、あなたじゃなくたっていいんだ」


瞬間、弟の全身から、あらゆる方向へ突風が放たれた。それは同心円状に彼を囲んでいた兵士を一息で吹き飛ばす。兄は瞠目した。


「お前、なぜ、いつの間に力が戻った!?」


弟はそれには答えず、つかつかと近くの窓へと歩み寄る。


「兄さん……」


彼は首を動かさず、ただ窓の方を向いて言葉を紡ぐ。

その表情は、兄にはうかがい知ることはできなかった。


「僕は、兄さんとは違うやり方で、この国を変えてみせるよ――さようなら、永遠のお別れだ」


そして弟は、一瞬だけ、ほんの一瞬だけ兄を見て、その身を窓の外へ躍らせた。





そして、この世でたった二人きりの兄弟は、決して交わることのない道を、歩み始めた。


(2010.1.4~4.9)
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