Stage 1


目の奥が、じんと熱くなってくる。先ほど何の前触れもなく加えられた恐怖に対する怒りが、月子を動かす。

真守に背後から羽交い絞めにされたままの弦稀は、月子の視線を受け止め、吐くようにしてつぶやいた。

「……お前が最初から、素直に石を見せればよかったんだ」

「はあっ?!」

「ちょっ、弦稀!」

色めき立つ月子と、全く悪びれることのない弦稀を、真守は真っ青になって交互に見やる。

「ご、ごめんね。風賀美さんっ。こいつ、弦稀っていうんだけど、美少年のくせに雰囲気がすげえ怖くて、だからよく勘違いされやすいんだっ……で、でも悪い奴じゃない……か、ら」

語尾がだんだんと小さくなっていく。どうやら真守は、先ほどの弦稀の行動から、親友を良い奴であると説得するのは難しいと思ったらしい。

「良い奴? あんなことしたのに?」

「ごめん! それは謝るよ。けど……本当にこいつ、悪い奴じゃないんだ」

真守は、一度大きく息をすうと、おもむろに制服のポケットに手を突っ込んだ。

「真守…!」

驚いた弦稀が短く名を呼ぶが、真守は気にとめない。

月子は、真守が手にしているものを見、愕然とする。

それは――自分が持っている石の、色違い。橙色の、石。

「え……な、なんで?」

呆けたような物言いと態度が、二人の少年が求める答えを示していた。

真守は月子に目を合わせ、石を掲げてみせる。

「これは、俺が生まれてからずっと、俺の側にあったものだ。……けれどこいつのせいで、俺は誰にも言えない悩みを抱えていた」

わずかに陰りのある声になり、月子は目を見張る。そして、真守の後方で弦稀がどこか痛そうな顔をしていることに、もっと驚いた。

「そんな俺を見つけてくれたのが、弦稀だったんだよ。こいつは、俺が出会ったときから強かったんだ。そして、俺のことも気にかけてくれて……弦稀は、俺にとってかけがえのない親友なんだ」

真守は、一歩月子に近づいた。肩を震わせ、後ずさろうとした月子へ、謝罪の言葉と共に頭をさげる。

「本当に、ごめん! 嘘をついて連れ出したことは、謝るよ」



ゆっくりと顔をあげた真守の顔は、本当に申し訳なさそうだった。それを見ているうちに、月子の体でくすぶっていた怒りはだんだん萎えてしまう。

「もし風賀美さんが、俺たちの仲間なら……」

「不愉快、だわ」

真守の言葉を遮るようにして、月子は言葉を切り返す。ほとんど、反射的な行動だった。

「か、風賀美さん……」

「仲間なんて、ふざけたこと言わないでくれる?」

自分の予想よりも冷たい声が喉から出てきて、月子は少し驚いたが、新たにわいた感情は、止めようがなかった。

「第一、女の子にあんなことしておいて、謝罪もなしに仲よくなろうなんて、どういうこと? 無神経よっ!」

「あ、あの、それは、本当に悪かっ……」

真守の声は、そこで途切れた。弦稀が親友の肩をつかんで、真守と月子の間に割って入ってきたからだ。

再び弦稀の端正な顔が近づいてきて、月子は後ずさる。

「な、何なのよ!」

「……悪いが、俺はお前に謝るつもりは毛頭ない」

まさに謝罪してほしい相手に、無表情でぬけぬけと言われ、月子は目をむく。

「非常識にもほどがあるわっ?!」

「そうだな。確かに非常識かもしれない。その自覚はあるけど、お前に頭は下げたくないな」

次に続いた一言に、月子は固まった。

「お前は、真守を傷つけた。そんな奴には、何と言われようと頭を下げたくない」

月子は口を開こうとして、しかし言葉は出てこなかった。

「あ……」

(わ、私……)

口を押さえた指先が、わなわなとふるえている。

この場に自分がいることが耐えられなくなって、月子は逃げるようにして階段を駆け下りていった。





「弦稀、女の子相手には優しくしろよ。そんなんだから、いろいろと勘違いされるんだよ。お前、本当は良い奴なのに」

「女にどう勘違いされようが、俺には関係ない」

「そんなこと言うなって。風賀美さん、俺たちと同じで、石持ってたじゃん。だから、仲間じゃん。仲間には優しくしようぜ?」

「あの女が俺たちと同じ、か……気分が悪い」
 
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