Stage 1
開けた風景が目に飛び込んでくると同時に、強い風が吹いて、月子の背の中ほどまで伸びた髪をまきあげる。
前方には運動場が見渡せ、そのまた奥には、新しい住処となった町の風景が広がっていた。
少し感心してそれを眺めていた月子は、先客に気がつく。
それはおそらく、同い年の少年だ。
日本人離れした、鼻筋の通った顔。少々色素が薄いのか、少し長めの髪も瞳もこげ茶色だ。
いわるゆ美人に属する目鼻立ちをしているとは思うが、どこか金属のように厳しく冷たい印象がぬぐえない。
相手は、手すりにもたれかかって腕を組み、値踏みするかのように月子を見ていた。不躾な態度を隠しもしない少年に、月子は腹が熱くなるのを感じる。
(な、何よ……)
ひるみつつも睨み返す。と、少年が言葉を発した。
「こいつなのか、例の転校生は」
少年は、月子のすぐ隣にいた真守へと問いかけたようだ。知り合いなのだろうか。
「うん、そうそう。風賀美月子さん。しかもさ、俺の隣りの席なんだぜ?」
「なるほど、こいつか……」
顎に手をあてがって、なおも目の前の少年は自分を鑑定品のように眺めまわしている。彼は何も言わないし、真守もどういうことだか一切説明してくれない。
いよいよ月子は我慢できなくなった。
「転校生がそんなに珍しいの? でも、私は客寄せパンダじゃないわ。そんなにじろじろ見るのはやめてちょうだい」
隣りに立つ真守が、少し焦る気配がする。しかし、目の前の少年は、月子から目を離そうとしない。
「え、えっとさ、風賀美さん。これはすごく説明しにくいことで、あの、つまり……」
しどろもどろに弁明を始める真守を、月子はきつく問い詰める。
「どういうつもりなの? 私をからかってるの?」
「いや! 俺たちは至って真剣なんだけど、何で真剣なのかはうかつに言っちゃいけなくて……あー、何て説明すればいいんだ?」
頭を抱える真守を、冷めた目で睨んだ。
「大事な話って、私をからかうことだったのね……教室に戻るわ」
くるりと方向転換し、真守の制止の声をふりきってドアを開けようとしたら――手首を乱暴につかまれた。
「何よ!」
顔をあげると、自分を値踏みしていた少年の端正な顔が、視界いっぱいに広がる。
その距離感に戸惑ったのもあって、月子は思わず大声を出してしまった。
「は……放して!」
が、少年は、月子の視線に怯むことはなかった。
「お前……これは、何だ?」
少年が、ふと腕を持ち上げ、月子を見据えたまま、月子の胸を指差す。細くて白いそれはちょうど、服の下に隠れた石を指し示していた。
「……!!」
軽い動揺を見破られたらしく、少年はさらに畳みかけてくる。
「見せろ」
「な、なんでよっ! 何であんたに、そんな…」
「いいから、その石を見せろ」
「っ!!」
見ていないはずなのに、首から下げられたものが何なのか、少年は分かっているのだ。月子は、足から背中へと冷たく駆け抜けるような、本能的な恐怖を感じた。
「え? じゃあ、風賀美さんで正解なのか、弦稀!」
切羽詰まったような真守の声も、耳に入らない。月子は後ずさろうとするが、背がドアに当たってしまう。ドアノブを何とか探ろうとするが、その手を少年に強くつかまれ、ドアに押し付けられた。
「や、やめてっ!」
「見せるんだ」
「嫌だ! 放して!」
何とか相手を突き放そうとするが、こちらのほうが力は劣っている。胸倉をわしづかみにされ、月子は喉をひきつらせた。
「ちょっと待て弦稀! それじゃあやってることが犯罪者と変わりないだろーっ!!」
悲鳴が喉の奥から爆発しそうになったまさにその時、真守が弦稀の手を、月子の体から無理やり引き剥がす。
解放されたとたん、月子の膝は勝手にくずおれそうになる。が、何とか意志の力でそれをこらえ、怒りを込めて弦稀を見据えた。
「何……するのっ!」
両手で胸の前をかばうようにし、服の下の石の線に触れる。石もまた、月子の心と同じように、さわいでいた。
「いきなり女の子にこんなことするなんて、最低! この変態! 犯罪者予備軍!」