Stage 7
「少しでもあなたの自由を奪えば、私の勝ちよ」
カエンとマリンを見て、地面に落ちた石の位置を確認し、月子は叫んだ。
「――我が元に来たれ! 我が腕となり、仇なす者を懲らしめよ」
ふわり、と風が月子の頬を撫でて、そのまま彼方へと飛んだ。転がった石を数個持ち上げ、舞い、真守とクリティアスを狙う。
頭を打った真守は無言で倒れ、クリティアスも鳩尾に石がめりこみ、身を屈めた。
「ぐっ!」
「ウーレアさん、これで大丈夫?」
焦って問うと、やや青ざめたウーレアが、片手だけ上げて微笑んだ。
「――守るべきものを母なる慈悲で包みこみ、望む場所まで運べ」
ウーレアが言い終わるや否や、弦稀を抱きかかえたままの月子は、透明な何かに包まれた。
ウーレアも、カエンとマリンも、同じように透明な球の中に入っている。
「待て……」
かすれるように叫んだクリティアスが、マリンに向かって手を伸ばしたが、そのまま倒れ伏してしまった。
その球は、ふわりと宙に浮かぶ。気を失ったままの真守を見て、月子は心を痛めた。
(遠城寺君……)
わけもわからぬまま、彼をここに置いていくしかないのがもどかしい。だが今は、この五人で逃げるのが最善なのだろう。
ウーレアの声が響いた。
『この透明な球はね、作り立ての時に攻撃されると壊れちゃうんだ。一度壊れちゃったら、また作るのに時間がかかるから、一度敵を大人しくさせる必要があるんだよ』
『全く、一時はどうなるかとヒヤヒヤしたわ』
マリンが、大きくため息をついた。次いで、カエンの訝しげな声が響く。
『なあ、どうしてあいつは、攻撃してこないんだ?』
カエンが言っているのは、四つの球を睨みあげたまま微動だにしない、拓爾のことだ。
『さあね、攻撃は得意じゃないのかも。そんなことより、結界が再構成されないうちに、さっさと退散しなきゃ、そろそろ準備はいいかい?』
ウーレアの問いかけに、カエンとマリンがげんなりと息を吐いた。
『え? 準備って?』
『月子ちゃん、先に言っておくわ。これ、酔うわよ』
『ウーレアは地や石を操れるんだ。これはウーレアの技の一つで、地面に好きなように潜ったりできる。ただ、俺はこれがあまり得意じゃない』
『私もよ。暴れ馬に無理やり乗ってるような感じがするの』
『しかも視界が土の中だし暗いからな。時間は長くないけど、目的地に到着した後は、疲れてすぐに立てないんだ』
双子の説明に、月子はどんどん頬がひきつっていった。
弦稀が、ぽそりと耳打ちしてくる。
「よくわからないけど、ジェットコースターみたいに思えばいいんじゃないか?」
「麻倉君、私、絶叫系は一切駄目なの。苦手なのよ……」
同情を帯びた弦稀の視線が刺さる。とほほ、と月子はうなだれた。
『さあみんな、いくよー』
ウーレアの呑気なかけ声と同時に、月子は激しく両目を瞑った。