Stage 6






白いのか暗いのか、よくわからない場所にいた。

月子は胸を押さえた。誰かの感情が、内側で暴れている。

大きな悲しみに混ざっているのは、憤怒と諦観と、安堵だ。


(なぜ、私だったのか。他の者ではいけなかったのだろうか)

(でもここで命を絶てば、苦しみは終わる。孤独も終わる)

(代々受け継がれてきたこの宿命を、私一人で背負いきることはできなかった)

(ここで命を絶てば、今あることわりが乱れるだろう。でも――その罪深さと向き合う力さえ、もう、私にはないのだ)


「やめて……」

涙が次々と溢れてくる。月子の涙ではない。他の人間の涙のはずなのに、月子の頬を濡らしている。

自分の手が、短刀を握っていた。切っ先が、月子の喉に向かっている。

このままでは、刺さってしまう。背筋が凍ったと同時に、視界に入った腕に、違和感を覚えた。

明らかに、月子の腕ではない。他人の腕だ。

(これは、誰かの記憶? 誰かが今、死のうとしてる? 私は、それを見ているの?)

いけない、そう叫ぼうとしたのに、声はどこかに吸い込まれた。

やがて、視界が黒くなった。予想していたような痛みはやってこない。

胸の内側を支配していた感情も、消えていく。

代わりに、ひとつの確信めいたものが浮かんできた。




「あの夢で見た人は……〈はじまりの女〉? じゃあ、もしそうだというのなら、もう一人の男の人は、一体誰なの?」
10/10ページ
スキ