Stage 5
「もし、大丈夫ですか? 僕はあなたを迎えにきた者です」
反応はなかった。リオはしばらく悩んだ末、胸から下げていた笛をくわえる。
この笛は、〈シュビレ〉の一部の者しか聞き取れない音を出す特別な笛だ。何かあれば、これを鳴らすようにと言われている。
リオは、一向に目を開ける気配のない少年を、見降ろした。
これは早く、手当てをする必要があるかもしれない。祈るような思いで、息を強く吹き掛けた。
また、周囲が騒がしくなった。リオから何がしかの合図があったようだが、月子たちには知らされない。無茶をさせないために、教えてもらえないのだろう。
(まさかリオさん、〈デミウルゴス〉に出くわしちゃったのかな……)
待機していた数名の若者が、馬を駆って地平線の向こうへ消えていく。その中に、人を乗せていない馬が二頭あった。
あれ、と思っているちょうどその時、リオの婚約者である少女が、月子と弦稀の側へやってきた。少女はひざまづいて、二人を安心させるように笑顔を見せる。
「リオが、〈イリスの落とし子〉を見つけたようです。今、救援を呼ぶ合図が送られてきたのですが、〈デミウルゴス〉の気配はないようですので、ご安心ください」
「そうですか。ありがとうございます。」
月子はほうっとため息をついた。隣りにいる弦稀も、あからさまな安堵の息を大きくつく。
太陽は沈みかけていた。もうそろそろ、夜がやってくる頃だ。
(遠城寺君、どうか無事でいて……)
沈みゆく赤い夕陽に向かって、月子は両手を組み、祈るような気持ちで無事を願う。
無事に会えたら――傷つけたことを謝りたい。
そして彼が許してくれるなら、友達になりたい。
弦稀と、少しずつ話すことができたように、真守ともまた、打ち解けることができたらいいのに。
(誰も怪我なんかしないで、みんな戻ってきて……)
意識を失ったままの真守が、〈シュビレ〉のテントに運び込まれたのは、真夜中を過ぎたころだった。