Stage 3
いや、本当にそうなのか? やはり自分は、どうかしてしまったのではないか。
それとも、周りがどうかしてしまったのだろうか。
「遠城寺君、どうしたの?」
茫然自失の真守へ、不思議そうにクラスメイトが問うてくるが、反応を返すどころではない。
真守はただ、目の前の光景がつきつける事実に混乱していた。
隣りの席にいるべきはずの少女が――風賀美月子が、いない。
それも、机ごと、だ。
教室の後ろにある、一人ひとりに割り当てられたロッカーに、彼女の名前が貼られていない。
黒板には、生徒の名字が書かれたマグネットが一枚ずつ貼ってあるのに、彼女の分だけがない。
「なあ、風賀美さんの机、は?」
ほとんど直感がそうだと告げているのに、無駄だと思いつつ、話かけてきたクラスメイトに尋ねてみる。ほんの少しの可能性をよすがにしたかった。
「え、何?」
「だから、か・ざ・か・み・さ・ん、だって?」
「誰、その人? そんな人、うちのクラスにいないよ?」
何を当たり前のことを言ってるんだ、とクラスメイトの目が訴えてくる。
さあっと、真守の血がひいた。目の前が傾ぐのをなんとかこらえ、もうひとつだけ質問する。口がわれ知らずとひきつった。
「この間、転校生が来たよな?」
「えー、そんな話聞いてないなあ。転校生が来たんなら、どの学年であっても噂になると思うけど、そういうのは全然なかったし」
クラスメイトの話を最後まで聞いていられず、真守は教室を飛び出した。
むかった先は、弦稀のクラスだ。
変だとは思った。今朝から、うすら寒い予感はしていた。
無視できる程度のものではあったけれど、違和感はしこりのように残っていたのだ。
それが今、形を伴って真守に迫ってきている。
「あさくらつるぎ? 誰それ?」
弦稀とよく話していた生徒に怪訝な顔をされる。真守はかろうじて表情を取り繕い、その場を後にした。
自分がどこを歩いているのかわからなかった。予鈴のチャイムが響く中、気がつけば屋上にいた。
昨日と変わらない風景。面白みのない町。秋ぐれてゆく風。
なのに、真守の世界にいたはずの二人の存在が、絶望的なほどに消えてしまっている。
「なんで、だよ……」
ころん、と音を立てて石が落ちた。あわてて拾い上げ、両手でぐっと握りつぶす。
「なんで、誰も、いないんだよ……」
異質な力を持つ自分を恐れ、でも同じ境遇の弦稀と出会い、真守の心は少しは救われたのに。
また、突き落とされてしまう。あの暗い日々へと。
おびえ続けた、あの地獄のような時に。
秋ぐれる風が、孤独な真守の背中を叩く。
「どうして、また一人に……嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だああああああああああっっっ!!!」
切実な絶叫が、秋の空に突き刺さった。