三章


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その三日後、クルーヤはスペルステスと共に、長老の家で夕食にあずかっていた。

たった一度の出来事で、ずいぶんスペルステスに対する扱いが変わったものだ、とクルーヤは妙に感心した。

その席には、ミリーナやリイカをはじめとする長老の家族、それとなぜか、エランも同席していた。

エランと隣同士になってしまったクルーヤは、なぜエランが苦い表情をしているか不思議だったが、あまり詮索はせずに匙をもくもくと口に運ぶ。

スペルステスといえば、熱心にあれこれとごちそうを進めてくれるミリーナに戸惑っていた。


「これ、私とお母さんが作ったんだ。木の実を蜜で甘く漬けこんで三日間寝かせたものなの。食べてみて?」


「ああ、ありがとう……うん、美味しい」


「本当!? よかったー」


心なしか、ミリーナの笑みはいつもより華やかに見えた。これは誤解をしているな、とクルーヤは思う。

今のスペルステスの体は、とても女だとは考えられない。線の細い、少年のそれにしか見えない。

〈アンプロセア〉の秘儀の力はとんでもないな、と改めて感心せざるを得なかった。


(でも、おばばは気になることを言ってたよな。このままじゃあ、スペルステスの体が持たない、とか何とか……)


そう、スペルステスが生まれもった性は、まぎれもなく女なのだ。それを無理やり、ことわりを捻じ曲げて男のものとしているのだ。


(でも、それならどうすればいいんだ? こいつが納得する形で、どうやってこの問題を解決すれば……)


「ねえクルーヤお兄ちゃん、お腹いっぱいなの?」



先ほどからちょこまかと動きまわっていたリイカが、いつの間にか側までやってきてこちらを見上げている。

クルーヤは我に返って、止まっていた匙を動かし始めた。


「いや、違うんだ。ちょっと考え事をしててさ、たいしたことじゃないから、な?」


「ふうん、じゃあ、エランお兄ちゃんも、何か考え事?」


リイカは突然、話の矛先を変える。

話をふられた当の本人は、スペルステスの方へ向けていた険しい視線を、あわてて戻した。


「はっ? な、何だって?」


「エランお兄ちゃん、難しい顔してどうしたの?」


「お、お前には関係のない話だっ!」


顔を真っ赤にして、エランはそっぽを向いた。

クルーヤはちらりとスペルステスの方を窺う。

あいかわらず、ミリーナはスペルステスにあれこれと料理をすすめ、楽しそうに笑んでいる。
クルーヤは一人で悟って、一人でほくそ笑んだ。


(ミリーナ、お前もなかなか、罪つくりな奴だなあ……)


エランの純情な気持ちをほほえましく思いつつ、クルーヤは自分の分の料理をすべて平らげた。

おかわりをすすめられたのを丁寧に断り、エランにしつこく食い下がるリイカの注意を、自分へ引きつける。

リイカがこちらへ興味を向け始めると、あからさまにエランがほっとした顔をしたので、クルーヤはおかしくてならなかった。

食後の運動と称して、食卓から離れてリイカとじゃれあっていると、ミリーナの声がふいに聞えた。クルーヤはそちらを振り返る。
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