序章
今、〈アンプロセア〉の民は、人間の侵略のせいで、この島からほとんど消え去った。
ユーグレラも、もはや冥府へと下ってしまっている。
彼の死は、自分のせいだ。
スペルステスの胸は、ずきっと痛んだ。
なぜ、自分が生き残ってしまったのか。
なぜ、名無しとさげずまれた自分がここにいるのか。
なぜ、何の役にも立たなかった自分が、生きながらえているのか。
なぜ、なぜ………。
そしていつのまにか、まどろみから目覚めていた。
一瞬のうちに襲ってくる激痛と、雪の冷たさに顔をしかめる。
「……う、くうっ……」
耐え切れずに、声が漏れた。
生まれてから十六度目の冬を迎えようとしているスペルステスは、積もった雪の上にうつぶせに倒れていた。
右手には細身の剣がしっかりと握られ、腹部からの大量出血のせいで、服は変色してしまっている。
純白の雪で化粧をした森の奥深くに血まみれのスペルステスが転がっている様は、異様ともいえる光景だった。
「くそお……」
消え入るような声で毒づき、唇をかむ。
脳裏に、先ほどの光景が浮かび上がってくる。
突然、武装した人間の集団とはちあわせたのだ。
それ自体は、めずらしいことではなかった。
なにせ彼らは、自分を追っているのだ。
だから彼らを見つける、あるいは彼らに見つかるということは、
よくあるといえばよくあることなのだ。
問題は、その人間の側にいた、一人の男だ。