二章


丁寧ではあるが、有無をいわせない強い口調であった。

ネイファはじっと、その青い瞳を観察する。


「……お前さんたちが探しているのは、一体誰なんだい?」


青年は、色気の中に残虐さを交えながら、青い瞳を愉快そうに細めた。


「大事な秘密を持ち逃げした、かわいい少年です」


これで用事はすんだとばかりに、〈アンプロセア〉の青年は、踵を返し去っていく。

その背が、広場にあふれたマムダ族と人間たちの波の中へ埋もれても、うすら寒い心地が消えず、ネイファは思わず両手で我が身を抱きかかえた。


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とりあえず、落ち着かなければならない。クルーヤは自分にそう言い聞かせる。

木の中へ、スペルステスと共に身を隠せた。それは不幸中の幸いといったところだろう。

ここは、魔法の力にあふれた空間だ。時間が経つにつれ、クルーヤはそれのことを実感していた。

つまり、魔法に縁がない者は、この木の中の空間に気づくことは、まずありえない。

しかし、魔法を少しでもかじっている者の場合は、別だろう。

木の中の空間に対する知識がなくても(実際クルーヤも、このことを今日に至るまでまったく知らなかった)、魔法を感じ取ることができるならば、ここに気づく可能性は高いかもしれない。

そして、先ほど木の前に立った、人間たちの鎧をまとう〈アンプロセア〉の男は、その場を動こうとしない。

クルーヤは、静かに相手の青い瞳を睨み返した。未だ苦しみに苛まれているスペルステスを抱きしめる腕に。力がこもる。



そんなクルーヤの行動を知ってか知らずか、〈アンプロセア〉の男はおもむろに木肌へと手を伸ばす。

手のひらをあてがい、口の端がゆるりと持ちあがった。どこか愉快そうな、それでいて油断ならない笑みを浮かべている。


「教えてくれないか。私が探している者が、一体どこにいるのか…」


クルーヤは身構えた。木が、細かく震えている。おそらく、男に向かって返事を投げかけているのだろう。


「知らない? そうなのか? 赤い長髪をひとつに結び、私と同じ青い目をした少年は、この辺に来てはいないのか?」


スペルステスが、大きく息を吸い込んで呻く。


「我慢しろ、スペルステス」

これだけしか言えない自分が、情けなくてならない。苦しみを癒してあげたいが、今〈ファンティーア〉の〈歌〉の力を使ってしまえば、いざという時、自分の身さえ守れない気がするのだ。


(何で俺は、こんなにも無力なんだ…?)


男は、何か思案しているようだった。考えに沈んだ青い瞳は知的だが、しかしその一方で、危うげな均衡を保っている頼りなさも見てとれる。


「あ、いつ……どうして、ここ……に?」


腕の中で、心底驚いた声が響く。額に脂汗を浮かべたスペルステスが、驚愕を浮かべて男の姿に見入っていた。


「スペルステス、気がついたのか?」
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