序章


ユーグレラは静かな声で言葉を紡ぐ。

けれど、その声音には沈黙を許さない厳しさもにじんでいた。


「どうして、こんなことをしたんだ………」


スペルステスはますますちぢこまった。

さっき、水の中に意志でもって沈んだことを責めているのだろう。

けれど、あのときのスペルステスは、そうするしかないと思っていたのだ。

命拾いした今となっては、あのまま苦しい思いをして冥府に行かなくてよかったと、思い直しているのだが。

いまさら、死に近づいていたことへの恐怖がじわじわとよみがえってきて、気がつけば、しゃくりあげていた。


「う、うぐ……ひっく………」


それからスペルステスは、狂ったように謝罪の言葉を述べた。

ごめんなさい。ユーグレラ様、ごめんなさい。もうしません。本当に、ごめんなさい……。


「スペルステス、怖かったろう?」


いたわりの言葉とともに、ユーグレラはふわっと、その手のひらをスペルステスの頭にのせた。


「僕のほうこそ、きつく言ってしまって悪かった。でもね、スペルステス、これだけは覚えていて。今度また同じようなことをしようと思ったら、その時は、本気で怒るからね。もう、あんなことしちゃだめだよ、わかった?」


ユーグレラは、スペルステスの涙をぬぐう。

スペルステスの目から、よりいっそう涙があふれた。


「しょうがない子だね、スペルステス」


そういうと、そっとだきよせてあやしてくれる。

ユーグレラは、スペルステスにやさしくしてくれるのだ。


同じ年頃の少年少女からのけものにされているのをあわれんでか、二親がいないのを悲しんでか、ユーグレラはなにかとスペルステスを気にかける。

こうやって、やさしい言葉をかけてくれて、なでてくれて、駆け寄ってくと笑みを返してくれる年上の少年が、

スペルステスは、大好きだったのだ。

その小さな胸に収まりきらないほど思いは大きくて、尊敬していたし、愛していた。



これは、もう手に入ることは二度とない、時間。


つらいこともあったけれど、とても大切な思い出もある、自分の記憶。
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