二章


クルーヤが怒りながらも感心したような声をあげたが、それに反論するどころではない。

腹の痛みが広がると同時に、また、別の痛みが全身をかけめぐった。


(まただ……また、なのか?! 石の力が…切れ、て…)


「うっ……くうっ………」


「スペルステス……? おい、どうしたんだ!! 大丈夫か?!」


痛みが意識に刃を突き立てた。体中が熱くなり、腹が絞られるような感覚。

クルーヤが何かを言っている気がする。何を? 自分の、なまえ、を――?


「おい……おい! スペルステス! しっかりしろ! おい!」


ああ、そんなにゆさぶらないでくれ。耳元でわめくな、うるさい。


この時すでに、スペルステスはクルーヤの腕の中に倒れ込んでいた。

クルーヤはそれを受け止めそこねて、二人で尻もちをついていたのだが、スペルステスの全身は冷気よりも痛覚に支配されていた。

無意識に荒い呼吸を繰り返す。頭が締め付けられ、腹は絞られ、手足は自由に動かせない。

苦しい。苦しい痛い。誰か、助けて。

痛みから逃れたい一心で、われ知らず、スペルステスはクルーヤにしがみついた。信じられないほどに強く。

クルーヤは驚きながらも、二本の腕で少女をかき抱く。背をさすりながら励ましの言葉をかけ、なんとか立ち上がろうと足に力を入れた。


その時。


スペルステスがあえぐなか、誰かの名を呼んだ。



「ユーグ……ラ、様……」


聞き流してしまいそうなほどの、本当に小さな声。それでいて、とても切実そうな響きを伴っているものだから、クルーヤは硬直してしまった。


「ユーグレラ、様……」


ふと、数日前も、眠りの世界へ落ちていた彼女が、この名を口にしていたことを思い出した。

あの時はしっかり聞き取れなかったが、夢の中でスペルステスが助けを求める存在は、ユーグレラという名前らしい。

様、という敬称をつけるからには、彼女よりも目上の存在なのだろう。とても信頼していた人物なのだろうか。


(こんな、細っこい体のかよわい奴を一人で旅させて、そいつは一体なにやってるん……)


そこまで思って、ふと考えを改める――きっと、その人物はもうこの世にはいないのだ。

クルーヤの家族や一族が、すでに冥府の住人となっているように。

今だ、苦しそうな息使いの彼女をしっかりと腕に抱き、クルーヤは村を目指した。


本当ならば、きっと一生縁のなかったはずであり、今は彼の住処となっている、村へと。
 
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