二章


「あんたを治療したとき、最初から何かしらの違和感を感じていたんだよ。どうも変だ。この小僧は、自分で自分の体に細工してるんじゃないか、って思ってね。実は、私は昔、魔法もかじったことがあってね……」

「え!? おばばって魔法が使えるのか!?」


クルーヤは思わぬことに、話の最中だというのに声をあげてしまった。


「いや、使えはしないさ。少し勉強したことがある程度だよ。何かの足しになるかと思ってね。〈アンプロセア〉の王族に使える魔法使いから教わったのさ。そう、名前はなんといったかな。確か……うん、忘れたちまったね」


最後の一言に、クルーヤは盛大にずっこけた。


「おばば、それ、かなり重要なところだと思うんだけど……」


もしかしたら、スペルステスとつながりのある人物かもしれない。スペルステスが魔法を教わったのは、ネイファが魔法を教わったのと同一人物かもしれないのだ。


「ま、それはいいとして……とにかく、私はそのとき得た知識と、医者としての勘から、あんた――スペルステスの体から、違和感を感じたんだよ。それで、ずうっと考えていた」


スペルステスは、ネイファの推理を中断させようとはしなかった。

ただ、はたから見ていて、平静さが徐々に失われていっているようではある。

不安そうなクルーヤの視線に気がつくと、スペルステスは我に返ったらしく、少し下を向き、そのままの姿勢でじっとしていた。


「スペルステス――あんた、本当は女なんじゃないかい? あんたは、自分の体を魔法で男にし、ごまかしているんだ」


クルーヤの瞳は限界まで見開かれる。

いつの間にか近くに移動していたポーエも、同じように目を真ん丸にし、全身の毛をわさあ、と逆立たせていた。



「スペルステスが……お、女?」


知らないうちに茫然とつぶやいていた。

本来ならば信じがたいことだが、クルーヤは昨日の夜に見てしまったものがあるので、この真相は受け入れがたい、というわけでもない。


(ああ、でも、これからは必要以上に意識はしそうだなあ……だって、いくら月明かりだけとはいえ、全裸見ちゃったし……って! 思いだしたらまた顔が熱くなってきやがった!)


そして、一人で慌てふためいているクルーヤを、スペルステスとネイファは非常に冷え切った目で見ていた。

かちっ、と視線が合い、気まずさと恥ずかしさが一気に跳ね上がる。


「……な、なんだよ?!」

「この場合、顔が赤くなるのは僕のほうじゃないのか? 反対だろ?」

「……う」


的を得ていた指摘だったので、何も言い返すことができない。

どうやらネイファは、二人の様子を交互に見るうちに、昨日の夜に何があったのか大方察しがついたらしく、盛大にため息をついた。


「大丈夫さ。こいつは女に無暗に手を出すような卑怯な奴には育ててない。私が保障するよ」

「おばば! いきなり飛躍した話をするなよっ!」

「大丈夫だ。手を出される前に、切り捨てる自信はある」

「っておい! スペルステスも物騒なこと言うなあ!」


と、叫んだ後で、クルーヤはふと気がついた。


(今の発言って……自分が女だって認めた、ってことなのか? そうともとれるよな?)
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