二章
相変わらず、スペルステスは頑なな雰囲気をまとって黙々と食事している。
「お前、本当に起きれるのかい? 無理してるんじゃないだろうね?」
「大丈夫だ。心配はいらない」
いまだあまり納得していない様子のネイファを一瞥もせず、スペルステスは淡々と返した。
ネイファはうーんとうなって、ひとりごちる。
「あれだけ大きな傷なのに、たった三日で起きれるなんて……何か仕掛けでもあるのかね」
「僕は剣だけでなく、〈魔法〉もいくらか使える。それだけだ」
返事が来るとは思っていなかったのか、それとも答えの内容に驚いたのか、ネイファは目を丸くした。それはクルーヤも同じだった。
「そうだったのかよ。えーと、てことは回復の呪文でもつかったのか?」
「……まあ、だいたいそんなところだな」
へええ、とクルーヤは得心がいったようにうなずいた。
ならば、昨日の晩にみたスペルステスの裸身に、傷がひとつもなかった理由がすこしはわかったかもしれない、と思う。
と考えるついでに、どうにかして記憶から消去したはずの肌の白さまで思いだしてしまって、クルーヤは耳まで真っ赤になってしまった。
(く、くそう! どうやったら治まってくれるんだこれは!)
いらだちとあきれがこもったスペルステスの視線を感じつつ、クルーヤは頭をかかえた。
「――お前さんは〈赤髪の秘儀〉の継承者かい?」
ネイファの一言に、スペルステスが固まった。
がしかし、クルーヤは養母が何を言ってるのか、スペルステスの瞳がなぜ険しくなっているのか、わからなかった。
視線がぶつかりあっている二人を交互に見やる。声をかけようとするより先に、ネイファが切り出した。
「別に私は、あんたたち〈アンプロセア〉がどんな領域に達した知識を持っていたかなんて、ほとんどわかってやしないよ。それにこれからも知るつもりはない。〈赤髪の秘儀〉は、あんたたちにとって誇りであり、守るべきものだからね。安心しな」
ぽん、とネイファはスペルステスの肩を叩き、その顔を覗き込んだ。スペルステスはしばらく思案しているようだったが、ふっと、全身の力を抜く。
「そう思ってくれているんだったら、ありがたい」
「あのー……水を差すようで悪いんだけど、〈赤髪の秘儀〉って、何?」
おそるおそる尋ねてみるが、スペルステスは返答を渋った。
ネイファはどうやら自分が言わないほうがいいと心得ているようで、もくもくとスープを口に運び、ポーエの皿におかわりを盛っている。