一章


「な、ちょ、お、おおおい、クルーヤ!!」

予想通り、耳まで真っ赤になった少年を見て、けらけらと笑う。

「な、なんでそんなこと知ってるんだよ!?」

「知ってるも何も、見てたらバレバレだって、あれは。わかってないのはミリーナ本人くらいじゃないかなあ。ま、頑張れ」

再び肩をぽん、と叩くと、次の瞬間、雪玉が飛んできた。

顔面めがけてきたそれを、背をそらしてかわす。

「……よけたな?」

「そりゃよけるだろ」

目の据わったエランに、クルーヤはにやにやと笑みを浮かべたまま答える。

「エランー、めっちゃほっぺた赤いぞ? いっつもイライラしてるけど、お前もたまにはそんな顔するんだなあ」

「こ、このやろっ! これ以上からかうなら容赦しないんだからな!」

必死に手元で雪玉を固めているエラン。

クルーヤは少し距離をとると、対抗すべくすさまじい勢いで雪玉を大量生産する。

そして、先ほどまであった雰囲気はどこへやら、雪合戦がはじまった。

よけれる雪玉もあったが、もちろんまともにあたってしまったものもある。

クルーヤとエランはお互いの外套を白く染めながら、それでもいつしか、楽しげな笑みを浮かべていた。

「これでどうだっ!」

「おっと。はは、残念だなエラン。いくぞ!」

「って、そんなのあたりゃしねえよ!」



冷たさで指先はかじかみ、感覚がなくなる一歩手前までいった。

それでも体はだんだんとあたたまって、気分は太陽が空に昇っていくように高揚し、歓声が二人の間であがる。

ポーエもその雪合戦に参戦していたが、いかんせん体が小さすぎるせいで、作れる雪玉の大きさも小さく、よって戦力にも新勢力にもなりはしなかった。

やがて心地よい疲労が体を包みこみ、合戦はいつのまにかおひらきになっていた。

荒い息のまま目線を交わすクルーヤとエランの口元には、満足そうな笑みが浮かんでいた。

「今度もし、お前が俺を怒らせるようなことをしたら、特大の雪玉を顔面にお見舞いしてやる」

「そりゃ気をつけないとな。まあでも、よけれる自信はあるぞ?……ていうか、雪玉って、冬にしかつくれないじゃないか」

「じゃあ夏は落とし穴で決まりだな」

「なんでそうなるんだよ!」

うなずいて納得するエランに、クルーヤは全力で突っ込みをいれる。

クルーヤはそうやって皮肉めいたやりとりをしながらも、どこかこそばゆい感覚を味わっていた。

エランは自分を怒ってくれたのだ。命を捨ててもいいとおもっていたクルーヤの考えに、異を唱えて叱ってくれた。

そのおかげでクルーヤは、目が覚めた。
 
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