一章
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本日も、空は快晴だ。
雪で冷え切った大地の真上には、目の覚めるような青色が広がっている。
冬の時期に、これだけきれいな空が拝めるのもめずらしい。クルーヤは白い息を吐きつつ、感嘆のあまりつぶやいていた。
「よく、晴れたな……」
その言葉に、クルーヤの頭頂にしがみついていたポーエが、反応する。
「クルーヤの髪も、青空みたいなきれいな色をしてるよ。ほらっ」
「ああ、わかったから、あんまりかきまわすなよ。からまるだろ。おい、ポーエ……」
言いかけて、クルーヤは唐突にめまいに襲われた。
頭が重くなり、視界がぐらりと揺れる。体が傾ぎかけたが、何とか近くの木の幹によりかかり、膝をつく。
そのまま、めまいが終わるのをじっとこらえて待っていた。徐々に平衡感覚が戻ってくる。
クルーヤは息を吸い込み、己をなだめた。
大丈夫だ。俺はまだ大丈夫だ。これくらいで体がまいっているようじゃ、だめなんだ。
鼓動が早い。自分はいったい、何を恐れているのだろうか。
「クルーヤ、大丈夫?」
ポーエが地面に降り立って、こちらを見上げてくる。クルーヤはなんとか笑顔でうなずいた。
「ああ、心配するな」
そうは言うものの、体がどこかだるくてしばらく立ち上がる気になれそうにない。
「やっぱり、無理してたんだね、クルーヤ……」
見上げてくるポーエの瞳は不安げに揺れていて、すまない気持ちでいっぱいになる。
――まさか、〈歌〉を何度か歌ったくらいでこれほどまでに負担がかかるとは、夢にも思わなかった。
悪夢にとらえられているスペルステスの苦しみを、少しでもやわらげたい。
そう思ったからこそ、クルーヤは〈歌〉という手段をとった。
これは、クルーヤたち〈ファンティーア〉一族が使う不思議な力の中でも、最も一般的で、取得が容易なものも多いため、子供でも使えるくらいなのだ。
選んだ〈歌〉は、苦しみを和らげるために使われる〈歌〉。これならば、クルーヤほどの年齢になれば、大体の者は平気で歌えるのに。
けれど、それを数度やっただけで、めまいがおきるなんて。
(ふがいなさすぎる……こんなので、スペルステスを守れるのか……?)
数日前、長老をはじめとする面々に向って大口をたたいたばかりだというのに、クルーヤは早くも弱気になっていた。
今朝、ネイファにもひどく心配をかけ、きつくたしなめられた。
ネイファは気がそうとう強くはあるが、めったなことでは怒りはしない。
彼女が声を荒げるときは、本気で相手を心配しているときくらいだ。
『あんた、あの小僧を心配するのはまったくもって構わないけど、自分を省みることを忘れるんじゃないよ。あんた、いってたじゃないか――〈風〉が、自分を選ぶしかなかったんだって。だから、あんたは何があっても生きなきゃいけないんだろ? あんたたちの一族がずっとずっと守ってきたものを、あんたが守り抜くために』
ネイファの言葉を思い出す。クルーヤは苦々しく思った。
(わかってる……わかってはいるんだ。でも……)