一章
頭がだんだんと働いてくるのと同時に、どうしようもない熱い憤りが込み上げてきた。
スペルステスはユーグレラの亡きがらに体ごとかぶさり、パナケイラをしたから激しく睨みつける。
「どうして……!」
食いしばる歯の隙間から、言葉にならない思いがあふれてくる。
どうして、ユーグレラ様は死ななければいけなかったのだ。
どうして、僕は幸せなままでいられなかったのだ。
あまりにからだ中があつくなりすぎて、呪いの言葉さえ叫べない。
パナケイラはふん、と鼻で笑ってスペルステスの怒りを流し、血に濡れた剣を向けてくる。
鼻面に剣の切っ先がせまる。
スペルステスはぽろぽろと涙を流しながら、億さずになおもにらみ続ける。
そこへ、冷え切った声が響いた。
「なぜ、私をにらんでいるんだ? お前は」
ぐにゃり、とパナケイラの輪郭が歪んだ。
びくっとなって注視していると、すぐに別の人物に姿が変わる。
「……え?」
そこには、十六歳のスペルステスが立っていた。
「ユーグレラ様を殺したのは、お前だ」
十六歳のスペルステスが、幼いスペルステスを糾弾する。
「……いやあああああああああああああああっっっ!!!」
突然、何もかもが暗闇に閉ざされ、スペルステスはたった一人きりになった。
血の匂いも、剣を持った成長した自分も、ユーグレラの亡きがらもみあたらない。
スペルステスは、泣きじゃくりながら狂ったように叫び続ける。
「ごめんなさい……」
ごめんなさい。ごめんなさいごめんなさい。
本当は分かっていた。あなたは僕がいたせいで命を落とした。
僕が足手まといだった。
それでもあなたはふがいない僕を助けようとして、役立たずの僕のせいで、冥府へ行ってしまったんだ。
ごめんなさい。ごめんなさいごめんなさい。
僕は強くなんかない。自分がちっぽけだなんて、弱虫だなんて、わからなかった。
なにかできると思っていたのだ。なにかはわからないけれど、なにか。
けれど、無理だった。
あなたがいなくなってやっと、痛いほどわかったのに。それほど愚かなのに。
それでも、僕は約束を守らなくてはならない。
「ユーグレラ、さま……」
かすれた声で哀願する。胸がぐうっと重くなった。
「ごめんなさい……いかないで。いかないで……いやだよう……ユーグレラ様………う、うぐ、うっ、ひ……ひっく、う、ひっく……」
無力なスペルステスはただうずくまり、弱弱しくなげく。
しかし、泣きつかれてしまったのか、しばらくすると意識を手放し、眠りの世界へと落ちていく。
その際に、囁くような〈歌〉が耳朶を打ったが、スペルステスは特に気にとめることはなかった。