一章
一族が同じ道をたどったこの少年は、自分と、きっと同じなのだ。
そう思ううちに、クルーヤの中で少年に対する親密感のようなものが生まれていた。
「お前と俺は、きっと、この村の誰よりも似ている――そう思って、いいのかな、スペルステス」
つぶやいて、額の汗をふきとってやろうと、やわらかい布をあてようとした。
そのときだ。
「いや………だっ……」
少年がびくっと身をこわばらせ、ほとんど悲鳴に近い叫びをあげる。
これにはネイファもポーエも隣の部屋からすっとんで来た。
クルーヤはうかがうようにネイファを見たが、老婆はただ、首を振る。
「違う、うなされているだけだね」
「え……?」
再び少年を見やる。目はあいていない。
なのに身をよじらせ、再び苦しそうに息をはいた。
「いやだ……いや……やだあ………」
「夢を見てるんだろうね。昔の夢を、ね………あんただって、そうだった」
ネイファははクルーヤの傍までよると、ぽふ、と彼の腕をたたいた。
そのときになって、クルーヤは自分が震えていたことに気が付いた。
「さっきからこの調子なんだ。無理ないかもね。何しろ腹が刃物で裂けているんだし、いい夢は見られないだろうよ。私らには、何もできない」
ネイファの言葉には、無力感といらだちがにじみ出ている。
こうやって、悪夢にとらわれた一人の少年さえを救えない。ただ祈るしかできない。
若いころから村人の容態を見てきたネイファは、何度もこのような気持ちを抱えてきたに違いない。
「おばば……」
「クルーヤ、せめて見守ってやろう。あんただって、泣き虫だったのにここまで立ち直ったんだ。こいつだって、この傷に耐えるだけの根性はあるんだ。大丈夫さ」
それはまるで、ネイファ自身にも言い聞かせているかのようだった。
「やあ……」
スペルステスは、哀願するようなか細い悲鳴を再びあげる。
一瞬、それにひきずられそうになる。
クルーヤは身をこわばらせ、記憶の底からからみついてくる恐怖にのまれまいとした。
血の匂いが鼻先をかすめた気がした。
(違う、もう俺は、大丈夫だ……)
夢にうなされ震えている少年を、まるで、小さな子供のようだ、とクルーヤは頭の片隅で思った。
いても経ってもいられなくなって、伸ばされた手を、ぎゅっと両手でにぎる。
「おい、大丈夫か?」
囁くように問いかけても返事がないのはわかっていたが、非常に間合いよく、赤髪の少年から言葉がもれる。
「ユ…………様」
「え?」
身を乗り出して耳を近づける。
苦しそうな息づかいの中に、確かに、誰かの名前が隠れている。
「ユー……レラ、様……」
(様?……こいつの、主人か誰かか?)
「いか……ない、で……ごめ………な…さい…………いやだ……やだあっ……」
再びびくっと身をこわばらせると、スペルステスはそれっきりまた、深い眠りに落ちた。
ポーエが、いつの間にか腹にスペルステスの腹にのっかり、心配そうにうなだれている。