一章
我にかえった長老が、やっとのことで孫二人を黙らせると、うつむいたまま表情のうかがえないクルーヤを見やる。
「クルーヤ、今までわしらを、信用してなかったのか……?」
答えはかえってこない。
ただあまりに悲痛な沈黙が、その場を支配する。
気がつけば、暖炉にくべられたまきが燃え尽きようとしていた。
重たい燃えカスにうまった最後の小さな灯が、悪あがきをするように明滅したかと思えば、あっけなく消え去る。
「すみませんが、これで失礼します」
青をその美しい容貌に宿す〈ファンティーア〉の少年は、顔をあげることなく、扉の外へと去ってゆく。
バタン、と音がして、直後の静寂が耳に痛い。
ゼアは、扉からイレオンのほうに向きなおった。
苦いものでも口に含んだような顔をしているゼアの視線にうろたえ、イレオンはあえぐように言う。
「わ、わしは何も、死ねなどと言うつもりは、絶対になかった。絶対に……」
「それは、わたしもみなさんも、わかっています」
ゼアは、ひどく重いため息をついた。
「ただ、この村の誰一人として、クルーヤの心をむしばんでいたものに気がついてやれなかった。それだけは、確かでしょうな」
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うまく笑えない。これはやっかいなことだった。
今まで生きてきた中で、笑顔を貼り付ける方法を完璧に取得したはずなのだ。
特に、この村に世話になり始めてから、この処世術はとても大事なのだということを、理解していた。
なのに、さっきはまるでだめだった。
クルーヤは雪の降り積もるなか、足がとられることもいとわずに、走った。
長老の家はだいたい村の奥にあるのだが、そこを出てから、村の出入り口のある森の方へ、雪を踏みしだきながら、どこへいくともなしに走る。
口から吐き出される息が、白かった。
笑おうとしたのだ。さっき。
なのに、エランが怒ったせいで、うまくいかなかった。
唐突に立ち止まり、雪化粧を施した木の幹にがくりともたれる。
走ったせいで胸が苦しく、息も荒かった。
幹の表皮にこびりついた雪が、急激に頬を冷やす。
だんだんと感覚がなくなっていき、クルーヤは目を閉じた。そして一回だけ、とても大きなため息をつく。
次に目を開けたとき、クルーヤの表情にかげりはなかった。
着ている外套の前をぎゅっとあわせ、いまさらのようにがちがちっと震えてみせる。
「あー、さっむー!! うー、はやくおばばのとこに帰ろっと。こんなに雪積もってる中でじっとたってるほど俺は寒さに強くないぜ、っと」