一章
人間の入島により姿を消してしまった、〈アンプロセア〉〈ファンティーア〉〈イブイーシア〉の三種族は、〈碧き瞳〉と呼ばれて別格視されていた。
その数の多さ、青い瞳の美しさ、容姿のうるわしさ、その血をひくものだけが持つことを許された不思議な能力や独占的な知識が、〈碧き瞳〉を特別たらしめていた。
だからといって、彼らは島の王として君臨することもなく、他の種族を支配することもなく、〈碧き瞳〉の間でこれといった干渉やいさかいがあるわけでもなかった。
彼らはただ、そこにいた。
それが、滅びをきっかけとして、一部の島の住人から「滅びをもたらす不吉な者」として見られるようになったのだ。
実際、命からがら逃げ込んだ別種族の集落に裏切られ、人間たちの手に渡された例は、クルーヤの知らぬところでいくつもあった。
人間たちは、〈碧き瞳〉たちを、特に〈アンプロセア〉の者たちを、捕まえたがっているのだから。
人間の武力から自分たちの集落を守りたいがために、〈碧き瞳〉を人間たちに明け渡す。
お互いの利害は一致しているのだ。
イレオンもただ、そうしたほうが賢明だと考えている一人であるというだけで。
彼は、圧倒的武力と獰猛を誇る人間たちに、大切な自分の村が蹂躙されることを恐れているのだ。
ならば、クルーヤを煙たがるのは当たり前だった。
だから、イレオンを責めるわけにはいかない。そうクルーヤは考えている。
仕方のないことなのだから。
「やっかい者が、やっかい者の世話をすると言っているんです。あなたに迷惑はかけません。力の行使は、最低限のことならできますから、それで十分間に合います」
本当は、居座っているだけで迷惑なのだろうが――クルーヤの胸中で、灰色の罪悪感がたちまち膨れ上がり、彼を飲み込もうとする。
ゼアや他の面々がやめないか、と言ったが、イレオンはゆずらなかった。
「今日という今日は言わせてもらうぞ。クルーヤ、もし万が一、お前の存在やお前が連れてきた〈アンプロセア〉の存在が人間にばれたら、お前は責任がとれるのか?」
クルーヤは、イレオンの鋭い視線を受け止める。
「責任、ですか……」
「ああ、そうだ。どうにかすると言っているからには、失敗したらその責任はお前がとるのだろう? そうだろうな? まさか村に迷惑はかけないだろうな?」
クルーヤは険しい顔をしてだまりこむ。
こわばった頬に、ふと何かがあたった。見ると、ポーエのほそっこい腕だ。
ゼアが、たまりかねたように声をあげた。
「イレオンさん、あなたの心配もわかりますが、クルーヤが今まで何か一つでも問題を起こしましたか? そりゃ、最初のうちも私は不安でした。彼をかくまって、この村が無事ですむのだろうかと。けれど、現にこうして、何とかなっているではありませんか。人間の存在は確かに脅威ですが、それでも……」