一章


「ここで言い争っても、どうにもならないだろう? 皆がこんなに不安になってるのは、クルーヤもわかってるだろうが、〈アンプロセア〉一族は残党狩りの対象なんだ。もし、その〈アンプロセア〉を我が村がかくまっていると人間にばれたら……」

「ただでは済まないのは、俺にもわかってます」

クルーヤは、固い表情を崩さない。

「だから、万が一が起きないよう、俺があいつの面倒をみます」

脳裏に、真っ青な顔で寝台に横たわる赤髪の少年が、浮かんだ。

毅然として、顔をあげて、目の前に立つゼア以外に伝わるように。

この部屋にいる全員に伝わるように、クルーヤはきっぱりと言い切る。

「あいつは深手を負っているから、今は動かせません。だから、おばばの家で、俺が責任を持って看病します。それを認めていただきたいんです。お願いします」

ひざまずき、深々と礼をする。今が肝心なのだ。

どうにかして、あの少年の治療の継続を許してもらいたい。

クルーやは、肩に乗っているポーエもぺこりとおじぎをしたのを肌で感じた。

「どうだかな」

イレオンがささやくように不満をもらす。

他の者たちはうなるような声を出し、何も言葉を口にしない。



しばらくしてまたゼアが口をひらいた。

「クルーヤ、君は本当に、頑固な子だね。まるでネイファさんの実の子のようだ」

その口調は、どこか楽しそうな響きも交じっている。

クルーヤはゼアの真意を推し量れず、首をかしげた。

ゼアはわずかにうなずいてみせると、出席者の面々に向かって話しかける。

「みなさん、わたしも確かに、〈アンプロセア〉の少年を受け入れることは、怖いです。万が一見つかれば、何が起きるかわからない……しかし、わたしたちはすでに、成功例をつくっています。これは、ひとつ、考慮の対象にいれるべきではないでしょうか?」

そういって、ゼアはクルーヤの肩(もちろん、ポーエが乗ってない方)に手を置いた。

イレオンが呆れたようにため息をつく。

「そんなもの、浅慮だ。わしは認めん」

「いえ、イレオン殿がそう思っていらしたとしても、そう例えば……ネイファさんは、どうなのでしょうか?」

ゼアは、クルーヤの顔を覗き込んだ。集まった皆が、ネイファの名前にびくりと反応する。

村一番の名医で、気の強い老婆。彼女に逆らえる者は、あまりいないのだ。

「おばばは……俺以上に一生懸命治療してますから、あいつを追い出すなんてこと、絶対考えないと思います」

「なるほど、では、〈アンプロセア〉の少年をかくまいたくなければ、まず君より先にネイファさんを説き伏せる必要がある――そういうことになるんだね」

ここであらためて、ゼアはみなに向きなおった。

「いかがでしょう、みなさん。誰か、ネイファさんを説得できるかたはいますか?」
 
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