一章
「……クルーヤ」
長老が口を開き、慎重に言葉をすべらせた。
クルーヤは少しばかり身構える。
「……はい」
「まず聞くが、〈アンプロセア〉の民の少年を拾ったというのは、本当なのかね? リイカの見間違いなどではないのだな?」
クルーヤは今一度、集まっている者たちを見渡した。
いまさらこの状況で嘘を言っても、どうにもならないだろう。
ここで嘘をついたとしても、あとからばれる可能性はおおいに高い。ならば。
「ええ、そうです。昨日、森の中で血まみれで倒れているのを広い、介抱しました。いまはおばばの家にいます」
ここでそれを認め、何とか説得に持ち込んだ方がいいと、クルーヤは考えた。
案の定、あつまった者たちは、ざわめきたった。当然である。
そのうちの一人が、声を上げた。
普段クルーヤを快く思っていない、イレオンという五十をすぎた男だ。
「なんということをしてくれた。人間に見つかったらどうするつもりだ!」
クルーヤは唇をかみしめた。
その危険性は、もちろん考えた。
〈アンプロセア〉の残党狩りをしている人間にみつかってはことだと、運んでいる間は非常にひやひやした。
自分の行動が、村を危機に陥れる確率も、あることはわかっていた。
けれど、体が動いたのだ。
「……あのまま助けずに放っておくことが、できなかったんです」
クルーヤはうつむき、声を低くする。
これが答えになってないことくらいわかっている。
体が突き動かされた、たったそれだけのことで、村を危険に陥れる。
しかしあのまま、いてつく白い雪の上に赤い血を流し続ける少年をほうっておくことは、自分にできただろうか。
いや、絶対に無理だった。
「勝手にこのようなことをして、申し訳なく思っています」
「それがわかっているのならば、はやくその〈アンプロセア〉の小僧とやらを……!」
「追い出せと、言うんですか?」
クルーヤは硬い表情で、イレオンの主張を遮った。
相手を窺うと、イレオンはいきおいよく立ち上がり、いどむような視線をなげてくる。
それに負けぬように、クルーヤもにらみ返した。
「やめないか、二人とも」
漂い始めた緊張を断ち切ったのは、ゼアという男だった。
口髭の立派な、四十を過ぎたゼアは、クルーヤに好意的なマムダの者のひとりだった。
ゼアはとりあえずイレオンをなだめにかかり、彼が咳払いとともに着席すると、次にクルーヤに向き直った。