一章


ミリーナはこくんとうなずき、クルーヤはうなった。

ネイファは養い子の肩に手をおく。

その反対側の肩にちょこんとおさまっていたポーエは、きょとんとしながらもネイファの動作の真似をした。

「クルーヤ、頑張るんだよ。あの小僧の命はあんたにかかってるんだからね」

「クルーヤ、僕からもお願い。僕だけじゃだめなんだ。スペルステスを助けるためには、クルーヤとネイファおばさんの力が必要なんだ。クルーヤ、スペルステスを助けて……」

声をかけたそれぞれに視線を送り、次いでミリーナを見て、だめもとで質問する。

「俺がいかなきゃだめなんだな?」

ミリーナはうなずいた。

「連れてきた張本人と話さなきゃいけないって、長老様が……」

ミリーナは目の前の青髪の青年がげっそりしているのを見て、気まずそうにうなだれた。

「今からへこたれてるんじゃないよ、しっかりしな!」

彼の背中をひっぱたいて喝をいれたのはもちろんネイファである。

ポーエは肩に乗ったままついていくと言い張り、クルーヤは暗い表情のまま、ミリーナとリイカと共に家を出た。

長老の屋敷までは、そんなに離れてはいない。

しかし、無邪気に雪の上をかけずりまわるリイカは別として、重苦しい空気がただよっていた。

ミリーナはなんとかこの雰囲気を払しょくしようと、口をひらいた。



「クルーヤ、そんなに落ち込まないで。きっと大丈夫よ。クルーヤのときだって、みんな受け入れてくれたじゃない」

だが、青の色彩を有す彼は、楽観などはとうていできなかった。

「それはわからねえな。俺は一人目だったし、それに〈ファンティーア〉の残党狩りはほとんどおこなわれなかったといっていいから、うまく隠せたんだ。けれど、二人目ともなると、かなりしぶるだろうな。俺でさえかなり特例で、今だに嫌がってる奴らもいるだろ?

おまけにあいつは――スペルステスって名前らしいけど――〈アンプロセア〉だからな……」

人間たちは、なぜか〈アンプロセア〉一族の残党狩りをおこなっているのだった。

どんな目的があってのことなのかはしらない。

が、大方、彼らが有する知識をねらってのことだろうという予想はできた。

そんなことを知ってどうしようというのか。まったく、人間の考えていることはわからない。

「スペルステス、って、名前かあ……スペルステス……でも、〈アンプロセア〉なんだよなあ?」

「クルーヤ、さっきから何ぶつくさ言ってるの?」

肩に乗っていたポーエが、つぶらな瞳を一層丸くして問うてくる。

「あのさ、ポーエ、あいつはなんで、スペルステスって名前なんだ?」

ポーエは目をぱちくりとしばたたいた。
 
4/28ページ
スキ