「私お嫁に行くので」カラ主
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「こんにちは」
言葉を失い動揺する私に彼は再び優しく語りかけた。上の空でこんにちは…と返事をして立ち尽くす。服装こそ違えど特徴的な髪の毛や瞳の色も彼そのもので。失礼に当たるのを承知で凝視した。黒地に銀糸を織り込んだしっかりした作りの着物を着こなして、腕を組み堂々と立っている。いや全身、どこを見ても──
「えらい可愛い子で嬉しいわあ、一人で大丈夫やったか?」
耳をくすぐる独特の口調、揶揄うような口振り、それに混ぜてこちらへ向けてくる気遣いが私を面映くさせるところまでも。カラスバさんの姿で、声もそうで。
ええと、なんだっけ、ご挨拶を。この度はわたくしをそちらの家にお迎えいただき───、頭の中で準備していた感謝の挨拶をなんとか口から出した。ちゃんと言葉になっていただろうか……
「こっちおいで」
彼はそう言って微笑むと私の手を引く。
濡れ縁を隔てて中庭を臨み隣に座らされたと思うといきなり抱き竦められた。普段感じることのない男性の体を肌身に感じて私はぎこちなく固まる。許嫁って言うけどいきなりこういうことをするのもその範疇に入るんだろうか。
「ずっとこうやって抱き締めたかってん」
ぱちぱちと瞬きが止まらない。形式的な挨拶に終わると思っていたのに、口説かれて、いや、それ以上のことが始まっている。カラスバさんに似ているとは言え、いま挨拶したばかりの人だよ?だめでしょ。
「えらい怖がっとるなあ」
質のいい着物越しに感じる香りまでカラスバさんに似ている気がする。重い毒のような甘い匂いに親しみと、抱き寄せられている腕に対する緊張とを感じて心臓がずくずくと鼓動した。そ、そう、抱き締めているだけ。これくらいなら私にもたぶん大丈夫。
「ほんに可愛い子で嬉しいわあ。つい好き勝手したくなる」
そういう事を言うのを少しだけでも休んでくれないか──そう思っていると顔を掬い上げられた。近い距離で目線がぶつかり合う。
カラスバさんと全く同じ琥珀色の瞳が近付いてくる。見慣れた色だけどこんなに近くにあったことがない。こういう時、目って瞑るんだっけ?……、ぎゅっと目を瞑ってこらえているが、予測していたそれが来ない。
……恐る恐る目を開くと、顔を背けて肩を揺らしているところだった。くっく、としゃくり上げながら愉快そうに笑って彼が言う。
「セイカ、オレやで」
…………
口をぱくぱくさせて驚く私に、たまらないと言った様子でもうひと笑いする。
「あー受けた。いつ気付くかと思ったら全然気付いてくれへんから意地悪してもうた」
羞恥心と驚きと気が抜けたのとで全身から力が抜けていく。
「あーごめんごめん。怖がらせるつもりはなかってん」
瞳から涙が溢れてきていたことに気がついた。ミアレを発ってから張り詰めていた気持ちも全部目から溢れてきてしまう。
「……カラスバさんのこと嫌い」
「悪いのはオレやけどいけず言わんといて。怒るのは好きなだけしてええから」
「なんでカラスバさんがここにいるの?」
「うん、それは泣き止んでからにしよな」
長い時間はかかったがそう言って待ってくれていたお陰でいくらか落ち着きを取り戻せた。カラスバさん?に聞きたいことはいくらでもある。
「どうしてここにいるんですか?」
ここへ来る前、事務所で挨拶をしてカラスバさんには送り出されたのだ。その人がどうしてここで私を待っているのか。
「オマエが発ってからすぐにオレもミアレを離れてな。オレは途中寄るところもなかったから、ここで待ってたわ」
「…知ってたんですか?その時言ってくれても…」
「みんなに黙ってて貰った。どんな顔するかなと思って」
「なんでそんな意地悪……私がどんな思いで……」
不満を述べる私にカラスバさんが意外なことを口にした。
「相手がオレやって分かってセイカが来てくれんかったら寂しいやん」
「そんな事で約束破ったりしない」
「ほんま?」
「待ってください、相手って……。あの、カラスバさんなんですか?」
「うん」
そんなあっさり、うん、て……
ここのお家に男性は3人いた。そのほかに、女兄弟も。この度末っ子が普通の女性と結婚しまして(時代やね)、決まり通りの婚姻ができる人がいなくなりました。
「それで傍系であるオレに声がかかった。小さい頃に拾われたきりで縁が無かったのにムシの良い話やけど、後腐れがなくて使い勝手が良かったんやろなあ」
そう説明されて呆気に取られた。ここの人は私のことを一体なんだと、いや、意思に従い望み通りの結婚をしたことを讃えるべきなのだろう。
びっくりした?と問われて首を縦に振る。カラスバさんは満足そうに笑う。
「前向きに考えてくれたら嬉しいわ」
……
この人も何を言ってるの?