【グリ主】仄か(カラ主あり)
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あの子を最初にここに招き入れたのはおれだ。
だから最初から、何が起きても良いつもりだったのだろう。
「巻き込んでしまいすみません」
フラダリカフェの地下にあるラボでおれはあの子と立ち往生していた。
タチの悪いチンピラがカフェの周りに集まるようになっていたのは気付いていた。ワイルドゾーンが広がっていき居場所を追い出された連中にとって人の寄り付かない”フレア団”のカフェは格好の的だった。
それでも入ってこようと思うのすら避けられているのかカフェ部分はさして変わりなかったがラボのほうが荒らされていないかと調べに足を向け、ざっと内部を見て回って戻ろうとしたところであの子が降りてきているところと鉢合った。チンピラどもの騒ぐ声が聴こえ、2人でドアを振り向いた時には入口が荷物で塞がれ出られなくなっていた。
やられた…しかもこの子を巻き込んで。
おれのスマホロトムはカフェのカウンターに置かれたままで、彼女は昼間の活動で電源を使い切っていた。
「誰かに知らせるのは難しそうですね」
「おれが居ないことにグリーズが気付いたらここに居ると思い至るはずです。」
「明日の朝になればですが」
ちらりとあの子に目を向けた。
朝までおれとここに居たいわけではないだろう。
目を付けられていたのは明らかに元フレア団のおれで巻き込まれただけだから…
「ポケモンの力でなんとかできないか試してみます」
モンスターボールを構えて1歩踏み出すと、後ろから引っ張られる。
「だめです、グリさん」
「カフェが荒れちゃいます」
「…けど元々荒れていますし散らかった分はあとから片付けてしまえば」
「ダメですよ」
「朝まで待ってみましょう?」
有無を言わさぬ圧はバトルで対峙する時のそれでおれは黙る。
…正直、助かったと思った。
カフェはおれが1人になれる場所だから。
あの子は納得したようにおれの服から手を離して「ふー」と息を吐いた。
「ポケセンに寄れないならこの子たち元気にしておこうかな」
外で活動してきた後の彼女は、ポケモンを休ませることにしたようだ。
「よし、これで元気になった。万が一何かあっても安心」
「朝までここで待つからね。今日はもういいよ。おつかれ」
そう言って彼女はモンスターボールをポーチに収めると、がらくたを背に座り込んだ。
外の気配が分かるようにおれは入口を背に凭れかかり腰を下ろした。広いラボのフロアで機械だけが息をしていた。
時間が止まったように感じる。
「あの、きみはなんでここに。おれは様子を見ようと思って来たのですが」
「あー、いえ、ラボにいるポケモンを調べる為に寄ったら怪しい人がお店の周りをウロウロしてて…聞いているとグリさんのことを話してるみたいだったから…迂闊に飛び込んじゃって助けるどころか無意味だったけど」
「おれを助けに来たんですか?」
「……そう。…失敗してるけど」
……変わった、どこまでも変わった子だ。
「助けなくてもよかったんですよ」
「グリさんが強いのは分かってますよ。戦ったんで」
探偵さんのお手伝いをしていると色々なことが起こりますから、と彼女は続けた。
「おれ1人が困るならまだいいですが人を巻き込むことになって…」
言葉に溜息が混じる。
人から悪意を向けられるのはおれだけでいいのに。おれを見捨てればよかったのに。
「グリさんはタワーの時もその後も助けてくれたから、お返しに私が助けたって問題ないんです」
「…オレがあなたを助けたのだって。なにか、狙いがあってのことかもしれませんよ」
天邪鬼な言葉が口をつく。
おれはどうしても、人から信用されたり懐に入られる気配を察すると逃げたくなって堪らなくなってしまう。
元フレア団の関係者以外と深く付き合うつもりはなかったし、できるとも思わなかった。彼らとは見てきた世界が違う。
インクが水に垂れてしまえば濁るように、一度染まった思考は簡単に変えられなかった。
「そんなこと言われてもなー」
…そんな呑気な声でなく、もっとおれに呆れて嫌いになってくれ。
「内面とかは図りようがないですから、起きたできごとを見るのも大事ですよ」
「…!」
内面で人を図りようがないのならその人が行動したことを見ればいい───
初めて言われた。
何かをする前からフレア団の人間だからと嫌悪感を向けられたおれたちに掛けられたことのないものだった。
「余計なこと言ってたらごめんなさい」
おれの形相がよっぽど思い詰めていたのかあの子は謝った。
そういうわけではなかったが、何も言えなかった。おれの言葉より行動を見ると言っている人間に対して虚勢が湧いてこない。
沈黙が再び2人を包む。
その間におれは、彼女に言われたことを考える。内面を測るのではなく、その人がしてみせたことを見る、そういう世界の見え方について。
「ふー…」
静寂のなか漏れてきた声の主に目をやると心なしか顔色が悪い。
そうだ。日中は活動していたのだから疲れているはずだ。気温も下がってきている。
「一服しましょうか」
「好きなものを淹れますよ」
ニコリと笑顔が返ってくる。傍らに寄ってきて小さな身体で隣に腰掛けた。
「グリさんの淹れるものはどれも全部美味しいです」
側に来るなと拒絶したくなる気持ちは湧いてこない。代わりに何かくすぐったい感じがした。
「何がいいですか?」
彼女の笑顔が更に大きく咲いた。
たとえば、小さな子どもが、好きな場所へ連れて行ってもらえるとか、好きなだけ起きていていいとか言われた時のような、幸せを表すためにある笑顔だった。
おれにできることが誰かを少しの間幸せにするなら。
2人分のコーヒーの香りが立ち上って冷たい空間がほんの少しだけ暖まったように感じる。
気分が解れたのか彼女の頬に色が戻っている。地下の空気はなおも冷たかった。さすがにおれがくっついて温めるわけには──ああ。
モンスターボールを取り出して指先でそっと触れる。
外もすっかり夜の帳が降りたであろう頃、気配を感じた。ボールを握る手に力が籠る。おれの隣にはリザードンと、橙色の翼に包まり寝ている彼女。まだ気配に気付いていないのか起きる様子はなかった。
エレベーターの降りてくる音に合わせておれは気配を立てないように立ち上がる。
「…グリ?」
声の主は意外な人物だった。
カラスバが部下を引き連れて地下室に降りてきたのだ。おれを心底怪訝そうに見つめている。疑念の気持ちを少しは隠してほしいものだが、おれはずっと身分もロワイヤルのランクも隠して活動していたからカラスバに好かれていなくても仕方ない。
「無事か?」
「ええ。」
「そうか…」
「疲れて寝てますけど」
「そんならええねん」
「怪しい奴らがこの辺ウロチョロしとるって話はうちにも上がってきとってな、ソイツがホテルに戻らんって聞いて」
「外にいた連中は」
「若いモンに探らせて見つけるわ」
「そうですか…」
「おまえは?」
「見ての通り、なんとも」
「よし。」
リザードンに彼女を抱えさせてエレベーターを上がる。
あの子が無事に出ていったのを確認すると、カラスバが「おまえとリザードンが一緒でよかったわ。ありがとうな」
と礼を述べた。一廉の組を率いる人間に丁重に礼を述べられるとは思っていなかったのですこし驚いた。
「いや…巻き込んだのはおれだし」
「まあ……勝手に来たんやろアイツ」
その通りなので、フッと吹き出してしまった。言った方の彼もニヤリと笑っている。いつも無表情を決め込んでいるおれは、少しばつが悪くなって、何かやりかえしたくなった。
「この子のことで、あなたが礼を言うんですね?」
「は?何がや?普通やろ別に」
カラスバのおれを見る目が心底理解できないものを見る顔になった。それを見て少し満足する。
その甘い態度、見ているほうには丸分かりなんですよ──という言葉は飲み込む。
彼もおれと同じで身内には甘いほうなのだろう。
全然似ているところなど無いとずっと思っていたカラスバとおれに少し似ている点がある。嫌な気持ちはしない。彼女に寄りかかりたくなるのも理解できた。
ふにゃふにゃとした声が聴こえてきた。彼女が目を覚ましたようだ。
カラスバが声をかける。
そっとその場を離れようとしたらカラスバがこちらを指さす。
グリさん、またねー。
彼女の顔はそう言っているようだった。
眼鏡を直すふりをして顔を背ける。こういうのを照れ臭いと言うのだろうか。
一人でミアレの夜の闇に出ていってもなかなかその笑顔は頭を離れなかった。
(仄か/おわり)
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