(若カラスバ)Changed for bad
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セイカとオレは変哲のないカップルに見えるだろう。今だって遅めのランチを楽しんでいる最中に見えているに違いない。
「どんな事言ってた?オレ」
当たり障りのない会話、とは行かなかった。自分が何をしていたかも分からず好きな子に聞かないといけないなんて。
セイカの手が止まって抗議の目付きになる。
「知りたいんですか」
「自分のしでかした事やから、責任取りたいし……」
食器をカチャリと置いてセイカがこっちを見る。そんな物々しい雰囲気で話すような事をしでかしているんだろうか。だとしたら許しては貰えるんだろうか。
「だから、カラスバさんにキスされたんですよ、事務所のソファで」
セイカが少し怒りの混ざった声で言う。
怒る権利も文句を言う権利もあるのだから当然だ。
「アイツから?」
意外に思う。
クソガキ、悪ガキ、生意気、と悪口を並べ立てられ路上でコワモテに追いかけ回されていた頃のオレからは想像もつかない。ありとあらゆるトラブルは一通り経験したが色恋とは縁遠かった。
まあでもセイカ可愛いもんなあ……ガキの頃に会ってたらオレもそうなってたんかな。
なんか……会ったのが今で良かったのかもな。
多分昔のオレがセイカと会っていたら嫌われることばかりしでかしていただろう、そんな気がした。
「けどセイカってガード固い方やろ、ようできたなあアイツ」
肝っ玉持ちで誰にでも懐かれる割に恋愛の事になると懐に入れてくれず逃げ腰で、セイカをここまで持ってくるのに今のオレでも相当苦心した。それをアイツは容易に飛び越えていったと言う。
関心半分、不快感半分。
「無理やり…、とかでは、無いんよな?」
それだとすると困る。セイカに嫌われてしまって取り返しのつかない事になったらオレはどうしたらいいんだ。
「それは、ですね……」
「大丈夫か?嫌やったら話さんでもええんやで?帰ってゆっくりしよ」
「それが……」
セイカが空気を噛んで考え込んでいるのを辛抱強く待った。
事によっては自分をセイカから遠ざけないといけなくなる(どうやって?)
「私も、キスを教えてあげるって言って…………」
……ん?
なんで?
「最初はぎこちなかったんですけど。だから大した事ないし大丈夫だろうって」
セイカが手で顔を覆って、赤くなったのを隠そうとしている。照れている。
「そしたら?」
「最初はかわいいキスだったのに、気付いたら上に来てて、……思いのほか覚えが良くって……」
気持ち良くなってしまった、と……
消え入りそうな声を何とか(喧騒の中で)捉え、一部始終が大体想像ついてきた。
あのガキ。
ふところに入って油断させた所を噛み付いたわけか。認めたくはないがいかにもオレっぽい思考だ。年若い頃なら有利に立つために卑劣なやり方も躊躇わずやっただろう。
「これって『浮気』…、とかではないですよね」
「いや、無い無い無い!セイカを責めるわけないやん!」
え、大丈夫?これで『距離を置こう』なんて話にならへんよな?
そうなったら心のダメージが半端ないねんけど。
「セイカは悪ないよ?これはホンマに。ただセイカってしっかりしてるから何でそうなったんやろなって心配で」
必死に追い縋りつつ、グラスに口をつけて何でもない体を取る。オレのほうが惚れ込んでいて余裕が無いという事はまだセイカに知られたくない。
顔を手で仰いで上がった体温を冷まそうとしているセイカに、飲み物に口をつけるよう促した。
セイカはグラスをゆっくり傾けて、
「カラスバさんと違ってカワイイってしょっちゅう言ってくるんですもん」
と唇を尖らせた。
「カラスバさんは言ってくれませんよね」
「え?オレ?」
ちょっと待て。そういう話になるのか。
オレが悪い、とかそういう。
ガキのオレにやられた分を口説き直すとかではなくなってくる。
「今のカラスバさんにとってはそうでも無いのかなって」
「なわけないやん!」
「でも言われた事ないし」
「か……、か…、そんな事言われへんて!」
「ほらね」
「言われ慣れてないからあんな事になっちゃうんですよ……あんな直球で来られたら」
セイカが顔を覆ってさめざめと泣いてみせる。
それから決意したように面を上げた。
「よし。カラスバさん。事務所戻って練習ですよ」
いや、え。ほんまに?
しっとりと口説き直そうと思って外に連れ出したのにオレの方に累が及ぶとは思ってなかった……
xxxx
見慣れた事務所にいて自分で選んだソファに座っているそれだけのことが。今日はやたら居心地悪く感じる。
セイカ教官による”ご指導”が始まろうとしている。
「ホンマにやらなあかん?今日じゃないとダメ?」
「今度こそヤバいかもですよ。今日は止まれたけど」
そ、それを言われると……
ゴネるのを諦めてセイカと向き合う。
怒っている様子も、かわいい。
ぷりぷりと擬音が聴こえてきそうな怒り方は例えるならフェアリータイプ、相性有利を取っているはずなのにオレを苦しめる相手。主に胸の辺りが苦しい。
胸の中にビビヨンを住まわせている、そんな感じ。セイカが笑いかけたり拗ねたりする度に好き勝手にソイツらが暴れるし、それを押さえ込んでポーカーフェイスをするのも随分板に付いてきた。
そんな複雑怪奇な胸中を”カワイイ”の一言で済ませてここでオレのセイカとキスまでしくさって、クソガキ許せん──
「なんか凄く難しい顔してますけど大丈夫ですか」
「あんま大丈夫じゃないかも」
「私から言いましょうか」
「何を?」
「カラスバさんカッコイイよ」
「う……おおきに」
あっさりと言ってくれる。
「いつもリードしてくれるし」
「うん、そやな……」
それはオマエに格好良う思われたいからやで。
「あの、セイカもう昔のオレと会うてるから知ってると思うけどオレってクソガキやってんか……」
「クソガキっていうか……、ふふ」
あ、アイツの話で笑った。なんか腹立つ。これって嫉妬やんな。
「今も必死に格好付けとるだけで、急に素直になるのムズいわ」
「うん、がんばって。負けちゃうよ、あっちのカラスバさんに」
だから、それを言われるとやなあ……
「セイカ」
「うん」
「セイカのことめちゃくちゃにしたい」
「うん?」
あ、違う事言ってもうた。普段から思っとる事やけど。
面食らっているセイカに取り繕う。
「いやあの、それくらい可愛いって事やで!?」
「……、なんか、思ってた『可愛い』と違う。……カラスバさんてスケベですね」
セイカが、大人って事ですね、とフォローしてくれたが悲しくなる。
自業自得としか言えない。
「こういう事になるから言いたくなかってん」
「言い慣れてないんだなって思いました」
「分かってるんやったらさせんといてや」
セイカの肩にもたれかかって溜息をついた。やり慣れない事でらしくなく疲れた。
リードしていたいのに後手後手に回ってしまう。
「お疲れ様」
セイカから労るように頬にキスをされた。優しくされて情けなさとくすぐったさが入り交じる。
「ちゅーしちゃった。私からは良いか」
「オレからしたらあかんの?」
「1日のうちに違う人と同じ場所でキスするのはちょっと……」
とセイカが辺りを見渡す。
アイツ。ここでなんてことを……
「アイツは良くてなんでオレはできひんねん……」
「可愛いって言ってくれないからですよ」
「もう言えない歳なの」
それが言えたらどんなに楽か。
セイカの事をリードしながらちょっとずつ毒に浸すように、気がついた時には逃げられないように……、と考えていたのに。
そうしたくてもセイカはいつもするりとすり抜けていってしまう。
追いかけるのに精一杯で、そんなところにガキのオレまで出てきて同じ相手にちょっかいをかけてきている。
「セイカ、異次元ミアレのこと何とかできひん?」
「いくらバトルが得意でも、それは無理かなあ……」
「セイカの可愛さで何とか」
「雑な褒め方、嬉しくないですよ。異次元ミアレのことはカラスバさんも頑張るんですよ。頑張りましょ?」
好きな子にそう言われたら頑張っちゃうのが男だけど、それ言っちゃう?
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