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黒を基調とした事務所で異国風のインテリアに囲まれて”カラスバ”はボスの席に座っていた。
右腕とされる大柄な男は出払っていて事務所にいなかった。
外では空が橙色に染まり始める頃か。
それもこれも自分の記憶が抜け落ちてしまって彼の負担が増したせいなのだが。
日が落ちそうな時間になっても戻って来れない右腕の不在が、事務所の広さをよりいっそう感じさせた。
したたる毒の意匠が凝らされたスーツを着ていると不思議と落ち着いた。
仇敵が右腕になっていることにも彼の部下がボスと仰いでくることはまだ夢のような心地がする。
「カラスバさま。お変わりは?」
No.2の男から確認の連絡が入った。
「残念ながら変わりないで。そっちはどうや」
自分でも知らん間に広ーくなっていたシマの管理について話し合っていると、ジプソが声色を変えた。
「カラスバさま、お聞きください。エムゼット団の皆さまが調査を終えたようです。次元の歪みは閉じたようです」
声の上ずりに嬉しさが滲んでいる。オレの知ってるオマエになったな。落ち着き払った声よりこっちのがオマエらしいやん。
「わたくしは雑事があるのですぐに戻れませんが、大丈夫でしょうか?」
「おー、かめへんかめへん。ご苦労さまやったな。迷惑かけたで。」
「ボス…なんスかそんな……水くさいこと」
くすぐったいやり取りだが、嫌な気分ではなかった。
「あ、もしかするとスピルさまがそちらへ寄られるかもしれません。お顔を見たいはずなのでお話になられてください。ゆっくりどうぞ」
いや、待て
と言う間もなく切られた。
オレからしたら知らんヤツやねん。2人にすんなや。
若さの残るカラスバは、不満を隠すことができず暫しロトムの向こう側の通話主を睨んでいた。
外では日が完全に傾き初め、ミアレの街を緋色に染めている頃。事務所に件の人が足を踏み入れた。
どこにでもいそうな若者。
目には星のような強い輝きが宿っていて、こんな”組”のモノとの付き合いがどうやって生まれたのか、見当もつかない。
「おう、ごくろうさん。」
彼女はパタパタと駆け寄ってきて、机と椅子の間に立った。
──怖くないんかい。
この肝っ玉が、”オレ”がコイツを気に入った理由なのだろうか?
「カラスバさーん…?ですか?」
「ああ、ごめんごめん。オレやねん。まだ戻ってなくてすまんなあ。」
目の中にあった親しみが消えて警戒の色が宿る。
怖がられてるやん。
未来の自分に問えない分、二人で話してみたいことはあった。
「あのさあ」
立ち上がって、体で壁を作り机の側へスピルを押しやる。
時間が惜しいので直裁に言う。
「オレのこと見て顔色変えたやんか。傷付いたわ」
「えーと」
「でさあ、これも分からんねんけど。ジプソがおまえやったら何とかしてくれるって言うてんか。それ聞いたらオレもそんな気持ちがしてきて大丈夫やって思ってん。そういう誰かを信じて頼るみたいなん?”オレ”には縁のない感情やからむっちゃぞわぞわすんねん」
顔に手を添え、小さなおとがいをこちらに向けさせた。
逃げ場のないスピルとカラスバの視線が間近にかち合う。
「おまえさ、オレのなんなん?」
取って食いそうな顔に、つい脅えの色を強くしてしまう。強ばるスピルの体の変化をカラスバは見逃さなかった。
「いやごめん、時間ないから聞きたいねん。オレってオマエのなんなん?」
「そ…それは……」
「分からんの?そんなんも分からんで何しとるん未来のオレ。ごっつダサいやん」
心底アホらしい、と言いたげな顔つきはスピルの知るカラスバと違い、やんちゃ盛りの若者のそれでジプソから伝え聞いた昔話と合致していた。
「ふふ…」
このカラスバとよく知るカラスバが繋がった気がしてスピルの気が緩む。
「なんで笑とるん…」
「や、ごめんなさい…カラスバさんて…おもしろい」
「なんや?ま、ええわ。ほんでおまえらええ仲なん?」
「え、ええ仲…って…」
「こういう事もうしてるん?」
カラスバの膝がスピルの股を割り、体を押し付けられる。
「こういう事やな」
「や……その……?」
「教えてや?」
「…何回か盛り上がってそういう”流れ”には…」
「ほおー」
面白そうに笑うカラスバ。2人でここでしたことを思い出して頬が熱くなる。正に今のような体勢で、この机に体重を預けて。
「あらあらあら。耳まで赤くなってもうた。いやいや逃げんといて?可愛い顔見せてよ」
「で、オマエはそういうことしてもエエくらいにはオレのこと好きなん?」
「そう、ですけど…?」
ムカっ。好きでもない人とそんなこと、しませんけど──?そうしている間にも2人の隙間がどんどん小さくなってスピルは姿勢を保てなくなる。
「そゆ事はもっと”いい人”としたほうがええんちゃう?」
そんなこと!いくら本人とは言え、カラスバのことを好き勝手に言うことに腹が立ち、スピルは睨みつけてしまった。
「自分のことやからよう分かんねんか。オマエ取って食われんよう気いつけたほうがええで。アイツ気取っとるようやけどオマエにむちゃくちゃしたい思とるはずやからな」
「な…」
突然落とされた爆弾にスピルは言葉がない。
「そろそろオレ戻って来ると思うけど」
「手え出したらオレが怒るかなあ?怒りそうやな」
しばしの逡巡。
「オレ根性ナシみたいやしな。怒らしたったらええか。」
唇が耳元へ近づいてくる──
「えっ、いやいやいや、カラスバさんっ──」
スピルの声が室内に響いた。
「……えーと」
抱き留めていた腕から力が脱け、
「オレなんか要らんこと言うてた?」
と頭を抱えるカラスバが目の前にいる。
「…大丈夫、だと思います…」
「これは言い逃れできひんやろ…」
スピルのことを押し倒して無理やりに手篭めにしようとしている輩の図に見えてはいる。
「いや…?これに関しては私も共犯みたいなところあるんで…?」
「そう言うて貰えると罪の意識が拭えて助かるわ…」
体を退けてスピルのことを立ち上がらせると、髪は乱れているようで、頬も高揚して赤く染っている。
絶対やらかしてもうてるやん──
と顔に書いてあるカラスバになんと声を掛けたらいいか。
なにしろ、まだこちらのドキドキが収まらない。
カラスバさんではなく、会ったことのないカラスバさんにペースを乱されて良いようにされた。そして、最後に言われた言葉。どうも、恥ずかしさでカラスバさんの顔を直視できる気がしない。
カラスバがふわっと抱き締める。
「ごめん」
「──戻ってきてよかったです」
「あっちのオレのほうがよかったりしてな?」
「ばか。」
んな訳あるかい。ドキドキはさせられたけど…
カラスバさんはカラスバさんで困ったところの大いにあるとんでもない男だが、あちらのほうは制御不能のはかいこうせんが所構わずぶち抜いてくるようだった。
「いやホンマにあの…後でちゃんと謝らせて……」
本気で落ち込むカラスバが珍しくて、スピルも笑う。
(おわり)