流れよ我が涙、と彼女は言った

窓から3番目の列、最後尾。まずまずの位置だ。

くじに書かれた番号と黒板の表を照らし合わせて、私は小さくガッツポーズを取った。内職にはうってつけの席だ。
ほくほくと荷物をまとめて席を移動する。前の席には真。隣に天野君、雛姫と連なる。隣の席は久々留で、そのまた隣には万里。

久々留がにこにこと笑い、その向こう側で万里がひらひらと手を振る。嬉しい。久々留から早速メモ紙が飛んできた。
『やったね!いっぱい手紙回そー!ダーリンも近いしね?』
スヌーピーの散った可愛いメモ用紙だ。思わず顔がほころぶけど、あんまり迂闊なことは書かないで欲しい。誰かに見られたらどうすんだ。
私は早速シャーペンを手に取る。手紙用に用意しているミニオンの小さなメモ紙に返事をしたためた。
『うん。嬉しい。でもあんまり変なこと、書かないよーに!』
小さく折って、久々留の席に放ると、中身を確認した彼女がにやにやと笑う。まったくもー。

休み時間にトイレに行った帰り、万里に捕まった。人目を盗んで一瞬の隙に地学準備室に引き摺り込まれる。ドアをぴったりと閉めて、その縁を大きな足の裏で押さえながら(多分万が一にも誰も入ってこないように)、きつく抱きしめられる。
耳に、首筋に唇を付けられる。壁に押し付けられて、手首を封じられて、顔中にキスを浴びせられた。たしなめたくて、万里、と名前を呼ぶと両腕を使って腰を抱き寄せられて唇を塞がれた。濃くて余裕がなくて切ないキス。何度も。
学ランの胸の第2ボタンが取れかかってる。それをつついて彼の潤んだ瞳を見上げる。
「ねえ、第2ボタンこれ卒業式に欲しいな」
「…全部あげる。俺が持ってるものなんかまるごと夜子にあげるよ。全部、なんでも」
泣きそうな顔。髪に指を入れるとまた唇が降ってきた。舌を絡めて見つめ合うと名前を呼ばれる。「夜」「夜子」って、何度も。その全てに返事する。好きだよ。もうどうしたらいいかわかんないよ。夜子どこにも行かないで。俺とずっといて。
まるで発作みたいだ。抱きしめて受け入れるしかできない。私も大好き。どこにも行かない。ずっと側にいるからね。私の言葉が甘い咳止めシロップみたいに彼を潤して覆って癒やしてあげられたらいいのに。

中休みの20分間一生分くらいキスして抱きしめ合った。時間をずらして別々に教室に戻ったのに、こういうことには滅法勘の鋭い久々留が私たちを交互に見やってにたにた笑う。何してたのかなー?やーらしっ、なんてからかわれてしまった。万里は全く動揺する素振りなんかなくて、あまつさえ「内緒♡」と余裕の切り返し。憎たらしいったら。
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