愛を乞うひと
最初に彼女を認識したのは、2年生の夏。駅前の楽器屋の前で、ヴァイオリンを弾いていた。
細い手足を踊るように動かして、教室にいる時とは別人みたいに綺麗だった。
正直『薄暗いブス』くらいに思っていたから、あまりにも意外で、頭から離れなくなった。姿を見られないかと毎日のように駅前に通った。
教室でも目で追うようになった。大人しくて控えめで、他の女どもみたいにぎゃあぎゃあ騒がない。よく見ると、白くて華奢で可憐な外見。それがその年の秋を過ぎたら劇的に華やかに綺麗になって、男どもは一斉に釘付けになった。
取られたくないと思った。彼女が俺だけを見てくれたら、あの身体を抱きしめる権利を貰うことができたら。そう思うといてもたってもいられなくなった。
一緒に委員をやったり、同じ班になれるように、さりげなく席が近くなるように画策したりと、我ながら涙ぐましい努力をして、なんとか視界に入るようになった次の早春の頃、いちかばちかで告白した。
返事は「NO」。好きな人がいるから、と言われた。食い下がる根性はなかった。
その後すぐに常盤小出身の後輩から、小学校の頃の騒動について聞かされた。
女優の娘だってお高く止まって性格が悪い、見た目と身体を使って男転がして歩いてる、なんて話もあった。なんだ、見た目と随分違うじゃないか。危ない、俺も騙されるところだった。そう思って吹っ切ろうとしてた時、あいつといるのを見かけた。
夜中に2人でべたべたして、俺には随分冷たい態度だったのに、女の顔してあいつを家に連れ込んで。とんだ淫乱だ。やっぱり噂は本当だった。
あんな女こっちから願い下げだ。綺麗な顔して、『何も知りません』と言わんばかりに清楚ぶって。どんどん綺麗になって、エロくなって、どうせあいつとやりまくってるんだ。
汚れてる
汚れてる
汚れてる
誰も思い通りにならない。なってくれない。
親も
兄も
クラスメイトも
教師も
彼女も
暇つぶしに使ってた愚図 が、初めて抵抗してきた。
あの目障りなチビに唆されたんだ。お人好しのチビと、いつも俺の上にいるあの男。ちょっとかき乱してやろうと送り込んだ香島は逆に落とされて帰ってきやがった。
目障りだ
壊れろ
死んじまえ
消えろ
いなくなれ
俺は一体何になるんだ。
どこへ行けばいいんだ。
誰といればいいんだ。
あいつらはどうしたら傷つくかな。
どうすれば泣き顔を見せてくれるかな。
そうだ、俺を拒絶した、あいつと笑ってる、汚れきったあの女。
どうせ汚れてるんだ、俺が更に汚したところで何の問題もない。
きっと、どうってことない。
細い手足を踊るように動かして、教室にいる時とは別人みたいに綺麗だった。
正直『薄暗いブス』くらいに思っていたから、あまりにも意外で、頭から離れなくなった。姿を見られないかと毎日のように駅前に通った。
教室でも目で追うようになった。大人しくて控えめで、他の女どもみたいにぎゃあぎゃあ騒がない。よく見ると、白くて華奢で可憐な外見。それがその年の秋を過ぎたら劇的に華やかに綺麗になって、男どもは一斉に釘付けになった。
取られたくないと思った。彼女が俺だけを見てくれたら、あの身体を抱きしめる権利を貰うことができたら。そう思うといてもたってもいられなくなった。
一緒に委員をやったり、同じ班になれるように、さりげなく席が近くなるように画策したりと、我ながら涙ぐましい努力をして、なんとか視界に入るようになった次の早春の頃、いちかばちかで告白した。
返事は「NO」。好きな人がいるから、と言われた。食い下がる根性はなかった。
その後すぐに常盤小出身の後輩から、小学校の頃の騒動について聞かされた。
女優の娘だってお高く止まって性格が悪い、見た目と身体を使って男転がして歩いてる、なんて話もあった。なんだ、見た目と随分違うじゃないか。危ない、俺も騙されるところだった。そう思って吹っ切ろうとしてた時、あいつといるのを見かけた。
夜中に2人でべたべたして、俺には随分冷たい態度だったのに、女の顔してあいつを家に連れ込んで。とんだ淫乱だ。やっぱり噂は本当だった。
あんな女こっちから願い下げだ。綺麗な顔して、『何も知りません』と言わんばかりに清楚ぶって。どんどん綺麗になって、エロくなって、どうせあいつとやりまくってるんだ。
汚れてる
汚れてる
汚れてる
誰も思い通りにならない。なってくれない。
親も
兄も
クラスメイトも
教師も
彼女も
暇つぶしに使ってた
あの目障りなチビに唆されたんだ。お人好しのチビと、いつも俺の上にいるあの男。ちょっとかき乱してやろうと送り込んだ香島は逆に落とされて帰ってきやがった。
目障りだ
壊れろ
死んじまえ
消えろ
いなくなれ
俺は一体何になるんだ。
どこへ行けばいいんだ。
誰といればいいんだ。
あいつらはどうしたら傷つくかな。
どうすれば泣き顔を見せてくれるかな。
そうだ、俺を拒絶した、あいつと笑ってる、汚れきったあの女。
どうせ汚れてるんだ、俺が更に汚したところで何の問題もない。
きっと、どうってことない。