アンドロギュノスの行進
「タカオカは相変わらず様子のおかしい奴だな…」
マックシェイクをずこずこと吸いながら、平が呟いた。
午後5時半。夜子があそこで金的を繰り出すことまで予想が出来ず、俺たちはアスファルトに崩れ落ちる鷹丘を、邪魔にならないように道路の隅に避けるのが精一杯ということにして、そそくさとその場を立ち去った。平は介抱してやりたかったみたいだけど、自業自得だほっとけ、と引き剥がし、こうして最寄りのファストフード店へ連れ込んだ次第。鷹丘にとっては、夜子に出会ってしまったのもその後の展開ももはや事故みたいなものだったし、多分何もかもが想像の範囲外だっただろうから多少パニクってしまっても仕方がない。しかし夜子の胸を触ろうとしたのは許しがたいので情けはかけてやらなかった。
華麗な脚さばきで鷹丘の股間を蹴り上げた夜子は、怒り心頭といった体のまま、ククルちゃんと引っ張って行ってしまった。これは後でフォローせにゃならんかなー、とぼんやり考えていると、いつの間にか平がこちらをじっと見つめていた。
「何?」訝しむと、万里さあ…とため息のように呟いた。頬杖をついてこちらを見つめる。またこいつの今日の格好は大分女子寄りだ。俺にとってはもはや夜子と平は似ても似つかないけど、顔立ちだけは確かに似ているから、慣れていない人間が間違えてしまうのは仕方がないことなのかもしれない。
「万里、俺に隠してることない?」
「そりゃお前そんなの星の数ほどあるだろ」
「そーなの!?」立ち上がらん勢いで驚く。
「たりめーだろ。隠してることからわざわざ言わないことまで死ぬほどあるよ。俺たちは違う人間なんだから」
本当はそんなことない、って言ってやりたいけど、俺はそもそも全てを他人にさらけ出すことができない人間だ。いや、誰だってそうだろ。平が特殊なんだ。まっさらで綺麗な平。せめて「全てを打ち明けることはできない」ということだけは隠さずにいたい。
「俺、ない、かも…万里に隠してること…」
「そんなことないんじゃない?『一ノ瀬雛姫が好き』とか」
意地悪を言ってやったら、ばばばばばば馬鹿万里!と平は茹でたてのタコみたいに赤くなる。おもしれー。
「告ればいいじゃん」
さらにからかうと、平はいよいよ怒ったようにそっぽを向いた。それからなぜか俺の顔色を伺うように目線を動かす。
「俺が告ったら、万里も告る?」
「は?誰に?」何が言いたいのかわからない。なんで俺が出てくるんだ?
「万里ってさ…今は…いや、昔さ…」
もじもじと指を擦り合わせながらゴニョゴニョと口の中で何か言っている。どうしたんだこいつ?
あ!と唐突に閃いたように平は顔を上げる。つくづく忙しない。なぜか目がキラキラしている。
「あった、俺、万里に隠してること!」
「何それ」
「教えない!」わーい、とさも嬉しそうにする。なぜかカチンときた。隠し事のできないこいつが隠し事とは、吐かせてやりたくなるじゃないか。
「なんだよそれ、教えろ」
「やーだね!」
言って席を立って、逃げ出すように出口へと駆けていく。俺は慌ててその華奢な姿を追った。
マックシェイクをずこずこと吸いながら、平が呟いた。
午後5時半。夜子があそこで金的を繰り出すことまで予想が出来ず、俺たちはアスファルトに崩れ落ちる鷹丘を、邪魔にならないように道路の隅に避けるのが精一杯ということにして、そそくさとその場を立ち去った。平は介抱してやりたかったみたいだけど、自業自得だほっとけ、と引き剥がし、こうして最寄りのファストフード店へ連れ込んだ次第。鷹丘にとっては、夜子に出会ってしまったのもその後の展開ももはや事故みたいなものだったし、多分何もかもが想像の範囲外だっただろうから多少パニクってしまっても仕方がない。しかし夜子の胸を触ろうとしたのは許しがたいので情けはかけてやらなかった。
華麗な脚さばきで鷹丘の股間を蹴り上げた夜子は、怒り心頭といった体のまま、ククルちゃんと引っ張って行ってしまった。これは後でフォローせにゃならんかなー、とぼんやり考えていると、いつの間にか平がこちらをじっと見つめていた。
「何?」訝しむと、万里さあ…とため息のように呟いた。頬杖をついてこちらを見つめる。またこいつの今日の格好は大分女子寄りだ。俺にとってはもはや夜子と平は似ても似つかないけど、顔立ちだけは確かに似ているから、慣れていない人間が間違えてしまうのは仕方がないことなのかもしれない。
「万里、俺に隠してることない?」
「そりゃお前そんなの星の数ほどあるだろ」
「そーなの!?」立ち上がらん勢いで驚く。
「たりめーだろ。隠してることからわざわざ言わないことまで死ぬほどあるよ。俺たちは違う人間なんだから」
本当はそんなことない、って言ってやりたいけど、俺はそもそも全てを他人にさらけ出すことができない人間だ。いや、誰だってそうだろ。平が特殊なんだ。まっさらで綺麗な平。せめて「全てを打ち明けることはできない」ということだけは隠さずにいたい。
「俺、ない、かも…万里に隠してること…」
「そんなことないんじゃない?『一ノ瀬雛姫が好き』とか」
意地悪を言ってやったら、ばばばばばば馬鹿万里!と平は茹でたてのタコみたいに赤くなる。おもしれー。
「告ればいいじゃん」
さらにからかうと、平はいよいよ怒ったようにそっぽを向いた。それからなぜか俺の顔色を伺うように目線を動かす。
「俺が告ったら、万里も告る?」
「は?誰に?」何が言いたいのかわからない。なんで俺が出てくるんだ?
「万里ってさ…今は…いや、昔さ…」
もじもじと指を擦り合わせながらゴニョゴニョと口の中で何か言っている。どうしたんだこいつ?
あ!と唐突に閃いたように平は顔を上げる。つくづく忙しない。なぜか目がキラキラしている。
「あった、俺、万里に隠してること!」
「何それ」
「教えない!」わーい、とさも嬉しそうにする。なぜかカチンときた。隠し事のできないこいつが隠し事とは、吐かせてやりたくなるじゃないか。
「なんだよそれ、教えろ」
「やーだね!」
言って席を立って、逃げ出すように出口へと駆けていく。俺は慌ててその華奢な姿を追った。