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かたおもい

 ずっと心の奥底で願っていたことだ。年を取るたびに感情を押し殺して我慢することばかり上手くなって、その陰でしがない願望を少しずつ膨らませて、たまにそのガス抜きをして。この馬鹿みたいにみんなに持ち上げられるサイドエフェクトがなくなればいいのになんて、思うことすら馬鹿みたいでいつしか考えることをやめたけど、これでやっとその願いが叶うんだなあ、と思うとふわりと体が軽くなったような気さえする。
 
 そして、叶うはずのない夢まで一緒に叶ってしまった。隣にいてくれればそれでいい、なんて簡単そうで一番難しいのに。人はなにかを成し遂げると、すぐにまた別のものを追いかけたくなってしまう。今だってそうだ。次の望みに手をかけてしまっている。嬉しくて仕方がないのに、今の気持ちをどう表現したらいいか悩んでしまう。なにも求めないように生きてきたつもりだったけど、案外強欲だったんだな。そんなことにすらやっと気づけて笑ってしまう。
 
 遠くからあの人の声が聞こえて、隊服がひらと視界の端で翻って、他の人はあまりそんなこと言わないけれど、やっぱりかっこいいなあと思ってしまう。そこでようやく生まれてきた意味がわかった気がした。ああ、幸せだなあと心の底からその腕の感触を噛みしめた。そんな怖い顔しないで、いつもみんなでいるときみたいに笑ってよ。もうなんにも言わなくていいからさ、ずっとこうしていてよ。まあさっきからもうなんの音も聞こえないんだけど、一番聞きたかった言葉は聞けたから。
 
 生まれ変わったら、どんなふたりから始めよう。太刀川さんがお爺ちゃんになるまで待っていなきゃいけないんだけどさ。ぼけてお餅喉につまらせたりしないかな。今までも、勝手にそんなこと思って心配してたよ。けど、そうなっちゃう前にでも、おれのことなんて早く忘れてさ、存分に満喫してきてね。おれはもう次のこと考えて胸が高鳴ってるんだから。
 
 
 
 好きだよ。
 
 ああ、もう聞こえてないか






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