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コーンポタージュ

 迅は冬の自動販売機が好きらしい。歩いているときに道端にそれを見つけると視線は必ずそちらに向くし、たまに立ち止まって隅から隅までラインナップを眺めている。特に寒くなり始める頃、温かいものが並べられるようになるとその頻度は更に増す。いったい何がそんなにこいつを惹きつけるのか、隣で見ていても何もわからず、結局ただ毎回小銭をたかられる羽目になるのだ。
 
 「ちょっといい?」
 
 買い物に行く途中、ふらりと入った普段通らない路地にて自販機を見つけた迅は、例に漏れず迷うことなくそちらに歩み寄る。
 
 「……どれにすんの」
 「え、いいんですか?」
 「こういう時だけしおらしいよな、おまえ」
 「せびってるつもりはないんだけど。じゃあこれ」
 
 少しのあいだ空中を彷徨っていた指が、コーンポタージュの前で止まりボタンを二回押す。このやり取りも板についてきて、俺の金なんだから俺の飲むもんくらい俺に選ばせろとか、そんな言葉はもはや頭にすら浮かばないくらい自然な流れになっていた。迅は立て続けに落下してきた黄色い缶を手に取ると、なにやら飲み口の下辺りに力を込めていた。それを眺めていると、作業が終了した缶をこちらに一本放ってくる。
 
 「はい、太刀川さん」
 
 見ると、スチール缶の一部が内側に凹んでいた。少し触ってみた感じでは簡単には形が変わらなさそうなその缶を見て、ああ、今は換装しているのかと気付かされる。どおりでいつもより薄着なわけだ。
 
 「今、何したんだ?」
 「ここ、こうするとコーンがちゃんと全部出てくるらしいよ。流体力学ってのが関係してるみたい」
 「リュータイ……へえ。たしかにそうだよな」
 「絶対わかってないよね」
 
 軽口を流しつつ、自分ではあまり選ばないようなその缶を開けると、飲み口からふわりと甘い香りが漂う。一口含み、久しぶりに堪能したその味は、缶から伝わる熱と肌を刺激する冷気とのせめぎ合いも相まって格別に感じられた。ただこの大の男達には少し小さすぎる温かさは、寒空の下すぐに終わりを迎えることとなるのだけれど。
 
 「あ、本当だ。最後まで出てきた」
 「おれも」
 
 こういうのを飲んだときには必ず残ってしまう、缶を振ると名残惜しそうにぽとぽとと鳴るコーン達も今日は全て胃に収まり、なんとなく充実感で満たされる。空は秋晴れ、冷たい風にそぐわない優しく照らされる日差しに、思わず頬も緩む。
 
 「お前、結構頼もしいよな」
 「実力派エリートですから」
 「これからもよろしくな」
 「……また買ってくれるの?ありがと」
 
 そういうことじゃなかったんだけど、まあそういうことでいいやと思い迅を見ると、満更でもなさそうな顔で再び自販機を眺めていた。俺よりも、そっちの無機物の方が惹かれるのだろうか。確かに身長的には若干負けているが、こっちには口だってその他諸々だって色々付いてるけど?と考えたところで馬鹿らしくなって張り合うのはやめた。所詮お前のような機械は俺の施しが無ければ、こいつに何も与えてやることは出来やしないんだから。
 
 「あーあ、あったかいのが無くなっちゃって手が寒いなぁ」
 
 冷たくなった二本の缶を捨て、そう言って悪戯っぽくこちらを覗き込むトリオン体の癖に寒がりな恋人を、両手ごと思い切り抱きしめた。





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