呼ばれる理由
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見るな、やめておけ、と聞こえたような気もする。
でもこれはあの時翼宿と見たものだ。確かにあの時、ここに絵が勝手に浮き上がっていた。
一番最後の巻だろうと思われる本を手に取った。
パラ……と手の中で開いた瞬間……信じられないものを目にした。
「……!!!!」
俺はパラパラと勢いを止めることなく、その中を見始めた。
視界に飛び込んできたのは、再会した俺と奏多の姿。
この一週間の出来事がダイジェストに描かれてある。
そして……今日。
今、まさにやってきたことが一番事細かに描かれてあった。
「なん……何なのだ、これは………」
思わずパタン、と本を閉じた。
正直、気味が悪い。
なぜ……描かれてある?
これは、あの時のように“今”描かれたものなのか?
もう一度、見て確かめなくては。
これからのことは?描かれてあるのか?
確かめたかった。
でも……見なければよかった……。
「井宿………」
今度は特別驚くこともなく、俺はその声の主に振り向いた。
そうなることは……知っていた。
今、読んだこの本の中にすぐに声をかけられることが描いてあった。
奏多はロングTシャツのゆるっとしたパジャマを着ていて、長い髪は服が濡れないように一つにまとめて、一本のクリップで留められている。
とても、可愛らしい。
いつもと違った雰囲気だ。
可愛いと言って抱きしめたい。
思うけれど口にすることは出来ない。
今の俺にはそんな余裕はなかった。
「奏多……これは……これは何なのだ……?」
「うん……そうなるよね。戸惑うよね。怖い……よね」
スッと伏せられた目を見て、俺は立ち上がった。
バサバサッと膝から本がなだれ落ちた。
「奏多……嘘、だろう?」
奏多は俺が落とした本を拾い上げる。
パラパラと捲っていくと、ちょうど今、俺が奏多に詰め寄っている姿が描かれてあるページを開いた。
「嘘じゃないの。全て……全てこの一週間、この本の通りに進んでいるの」
それは、新たに描かれるのではなく、そこにすでに描かれてあった。
俺が困惑し聞くことも、彼女がこう答えることも。
「色々ね、試したの。変わるように……っ。だけどね……っ……無理でっ……井宿……」
「そんな……この通りなら俺は……俺は……」
俺は見てしまった。
この先、何が起こるのか、を。
「君も、知って……だから、だから今日……!!」
「井宿……」
「呼ぶな!!!」
「っ………」
「その名で、呼ぶな………俺は、俺はもう……井宿じゃない……!」
君は、知っていたんだ。
俺が……まだ“井宿”で……。
また……この本の中に、入ってしまうことを。
「っ……」
だから、ずっと君は……俺の感覚を戻そうと、“井宿”と呼んでいた!
「ッ……、い、やだ………!」
「井宿……」
「いやだ!!いやだ、いやだ!!!」
「落ち着いて、井宿!!」
「呼ぶな……その名で……俺を呼ぶなぁああ!!!」
「っ………」
呼吸が出来ない。
苦しくて、悲しくて……受け入れられなくて。
俺は……頭を抱え込んだ。
「………准!!」
一際大きな声を出した奏多の声に、ハッとした。
気づけば肩で大きく息をしていた。
「ッ……ハァッ……ハァッ……」
「落ち着いて……准………」
「奏多………」
不甲斐なくガタガタと震える俺を抱きしめてくれた。
同じように震えている。
君も……君も本当は怖いのか……?
俺はその腕を抱き返した。
「奏多……行きたくない……」
「准………」
「せっかく、君が俺の名を呼んでくれたのに………本の中になんて入りたくないっ!どうしたらいい?どうしたら俺は君のそばにいられる!?」
「……っ」
互いに、額と額をすり合わせた。
「准……あなたは、井宿なのよ」
「違う」
「生まれ変わっても、あなたは……朱雀七星士なの……」
「違う!!もう俺には何の力もない!!術も使えなければ、気を読むことすら出来ない!!」
「それでも……!!あなたは呼ばれてる!!あなたを必要としてる人がいっぱいいるの!」
なぜだ。
どうして、君はそんなことが言える。
君は違うのか。俺を必要とする人ではないのか。
俺が本の中に入ってしまったら……君は……君は………。
「君と……離れたくないんだ……」
「准……」
俺の体をぎゅっと抱きしめる。
俺が消えてしまっても……君は平気なのか?
「君のいない世界で……どうやって生きていけと……」
目頭が熱くなる。
情けないから嫌なのに……それでも出てくるものを止めることが出来なかった。
「っ……准……准っ……!」
一緒に涙を流す、奏多を強く抱きしめた。
俺がこの本に入るということは、俺は“井宿”に戻るということなのだろうか。
それなら……俺はまた“本の中の人”に戻るのだろうか。
受け入れられない。
だけど……彼女は何をしても変えられなかったと言った。
俺が見たこの先の出来事。
「……奏多……」
「うん……」
君のことだからきっと何回も読んで、記憶しているのだろう。
俺が言わんとしていることを察している声だった。
もう奏多を抱きしめることが出来なくなるかもしれない。
もう君の声を聞けなくなるかもしれない。
もう……君の温もりを感じることは出来ない。
それなら俺の今の願いは……。
「君が欲しい」
「……っ」
「………君を……覚えておきたいんだ」
それは懇願に近かった。
奏多の両肩をグッと掴んでその瞳を見た。
こんな時に頼むことではないのかもしれない。
もっと足掻くべきなのかもしれない。
だけど……もし時間がなかったら……。
「君のすべてが、欲しい」
本来ならかなり緊張していたはずだ。
拒まれたらどうしよう、とか。早急すぎたかもしれない、とか。
だけどわかっていた。
俺がこう言っても君は拒まない。
そうだろう?
俺はチラリと落ちている本を見下した。
でもこれはあの時翼宿と見たものだ。確かにあの時、ここに絵が勝手に浮き上がっていた。
一番最後の巻だろうと思われる本を手に取った。
パラ……と手の中で開いた瞬間……信じられないものを目にした。
「……!!!!」
俺はパラパラと勢いを止めることなく、その中を見始めた。
視界に飛び込んできたのは、再会した俺と奏多の姿。
この一週間の出来事がダイジェストに描かれてある。
そして……今日。
今、まさにやってきたことが一番事細かに描かれてあった。
「なん……何なのだ、これは………」
思わずパタン、と本を閉じた。
正直、気味が悪い。
なぜ……描かれてある?
これは、あの時のように“今”描かれたものなのか?
もう一度、見て確かめなくては。
これからのことは?描かれてあるのか?
確かめたかった。
でも……見なければよかった……。
「井宿………」
今度は特別驚くこともなく、俺はその声の主に振り向いた。
そうなることは……知っていた。
今、読んだこの本の中にすぐに声をかけられることが描いてあった。
奏多はロングTシャツのゆるっとしたパジャマを着ていて、長い髪は服が濡れないように一つにまとめて、一本のクリップで留められている。
とても、可愛らしい。
いつもと違った雰囲気だ。
可愛いと言って抱きしめたい。
思うけれど口にすることは出来ない。
今の俺にはそんな余裕はなかった。
「奏多……これは……これは何なのだ……?」
「うん……そうなるよね。戸惑うよね。怖い……よね」
スッと伏せられた目を見て、俺は立ち上がった。
バサバサッと膝から本がなだれ落ちた。
「奏多……嘘、だろう?」
奏多は俺が落とした本を拾い上げる。
パラパラと捲っていくと、ちょうど今、俺が奏多に詰め寄っている姿が描かれてあるページを開いた。
「嘘じゃないの。全て……全てこの一週間、この本の通りに進んでいるの」
それは、新たに描かれるのではなく、そこにすでに描かれてあった。
俺が困惑し聞くことも、彼女がこう答えることも。
「色々ね、試したの。変わるように……っ。だけどね……っ……無理でっ……井宿……」
「そんな……この通りなら俺は……俺は……」
俺は見てしまった。
この先、何が起こるのか、を。
「君も、知って……だから、だから今日……!!」
「井宿……」
「呼ぶな!!!」
「っ………」
「その名で、呼ぶな………俺は、俺はもう……井宿じゃない……!」
君は、知っていたんだ。
俺が……まだ“井宿”で……。
また……この本の中に、入ってしまうことを。
「っ……」
だから、ずっと君は……俺の感覚を戻そうと、“井宿”と呼んでいた!
「ッ……、い、やだ………!」
「井宿……」
「いやだ!!いやだ、いやだ!!!」
「落ち着いて、井宿!!」
「呼ぶな……その名で……俺を呼ぶなぁああ!!!」
「っ………」
呼吸が出来ない。
苦しくて、悲しくて……受け入れられなくて。
俺は……頭を抱え込んだ。
「………准!!」
一際大きな声を出した奏多の声に、ハッとした。
気づけば肩で大きく息をしていた。
「ッ……ハァッ……ハァッ……」
「落ち着いて……准………」
「奏多………」
不甲斐なくガタガタと震える俺を抱きしめてくれた。
同じように震えている。
君も……君も本当は怖いのか……?
俺はその腕を抱き返した。
「奏多……行きたくない……」
「准………」
「せっかく、君が俺の名を呼んでくれたのに………本の中になんて入りたくないっ!どうしたらいい?どうしたら俺は君のそばにいられる!?」
「……っ」
互いに、額と額をすり合わせた。
「准……あなたは、井宿なのよ」
「違う」
「生まれ変わっても、あなたは……朱雀七星士なの……」
「違う!!もう俺には何の力もない!!術も使えなければ、気を読むことすら出来ない!!」
「それでも……!!あなたは呼ばれてる!!あなたを必要としてる人がいっぱいいるの!」
なぜだ。
どうして、君はそんなことが言える。
君は違うのか。俺を必要とする人ではないのか。
俺が本の中に入ってしまったら……君は……君は………。
「君と……離れたくないんだ……」
「准……」
俺の体をぎゅっと抱きしめる。
俺が消えてしまっても……君は平気なのか?
「君のいない世界で……どうやって生きていけと……」
目頭が熱くなる。
情けないから嫌なのに……それでも出てくるものを止めることが出来なかった。
「っ……准……准っ……!」
一緒に涙を流す、奏多を強く抱きしめた。
俺がこの本に入るということは、俺は“井宿”に戻るということなのだろうか。
それなら……俺はまた“本の中の人”に戻るのだろうか。
受け入れられない。
だけど……彼女は何をしても変えられなかったと言った。
俺が見たこの先の出来事。
「……奏多……」
「うん……」
君のことだからきっと何回も読んで、記憶しているのだろう。
俺が言わんとしていることを察している声だった。
もう奏多を抱きしめることが出来なくなるかもしれない。
もう君の声を聞けなくなるかもしれない。
もう……君の温もりを感じることは出来ない。
それなら俺の今の願いは……。
「君が欲しい」
「……っ」
「………君を……覚えておきたいんだ」
それは懇願に近かった。
奏多の両肩をグッと掴んでその瞳を見た。
こんな時に頼むことではないのかもしれない。
もっと足掻くべきなのかもしれない。
だけど……もし時間がなかったら……。
「君のすべてが、欲しい」
本来ならかなり緊張していたはずだ。
拒まれたらどうしよう、とか。早急すぎたかもしれない、とか。
だけどわかっていた。
俺がこう言っても君は拒まない。
そうだろう?
俺はチラリと落ちている本を見下した。