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なぜだろう。
この一週間、前世の話はほとんどしなかった。
奏多も特別語りかけてこないし、俺からも話すことはしなかった。
それなのに今日は、君から懐かしむように切り出される。
「正直言うとね、女誠国に行く頃のことなんだけど……あの時にはあなたのこと、好きだったんだと思うの」
「……まさか」
「なんでよ」
「泣いていたのだ」
「キスされて?」
「そう」
「もしかして、まだわかってない?」
頭を持ち上げて聞いてくるもんだから、首を傾げて見せた。
「ちょっと!やっぱりわかってなかった!」
「……俺からのキスが嫌だったんだと……それで俺も……」
「まさか、それで距離置いた、とか……言わないわよね?」
「…………」
「信じられない!!」
今思えばこのあたりからもうすれ違いだったのだと、話してわかった。
互いに意識していたのにそれに気づかないようにしていた。
俺はまた、人を好きになるとは思っていなくて……そして君は、自分を好きになる人がいるとは思っていなくて。
「君はもっと自信を持っていいのだ」
「自信?」
「何人の男が君にコロッといったかわかっているのだ?」
「それこそまさか!みんな年上が好きだったの?」
「冗談言ってる場合じゃないのだ。君だから……君という魅力に惹かれていくんだ。俺もその一人」
奏多の頬が、ぽっ、と頬が赤らんだのがわかった。
奏多も気づいたのだろう。
また頭を肩に持たれかけさせて、顔を見えなくした。
「信じられないのよ」
「うん、君はそう言うと思った」
「私は皆よりうんと上なのよ?」
「そうだね」
「それに……」
「それに本の中の人物……だから?」
「っ………」
「心配いらない。もう行くことはないから」
俺が行かせない。
君をまた……あの世界になど。
「え、ええ……そう、ね……」
奏多は言葉に詰まった。
俺はその本質に気づけなかった。
この世界は不思議だ。
俺がこうして、ここにいるのも奇跡に近いんじゃないかと思えてくる。
「本当に、よかったのだ。君とこうしていられて」
「……………」
不意に静かになった奏多に、首だけを動かして顔をのぞき込んだ。
目元はよく見えなかったけれど、口元が動いた。
「………ねえ……井宿」
「だ?」
前世の話をしているからだろうか。
もう、“井宿”と呼ばれることに、なんの抵抗もなかった。
姿は違っても、俺は……“井宿”なのだ。
「どうしたのだ?」
「今日……ほんとに泊まっていかない?」
………は?
「な、何を……っ、冗談じゃなかったのだ!?」
「イヤ?だめ?」
嫌とか、駄目とか、そんな問題ではなく……。
梳いていた手がピタリと止まるほど、俺は動揺していた。
どうしたらいいのだ?
これは試されているのだ?
「井宿……お願いがあるのよ」
「お、願い……?」
このセリフに息を呑んだ。
前にもオイラは……君の願いに惑わされた。
「な、なんなのだ……?君の願いは」
「………抱いて、ほしいの」
「ッ………」
あまりにも衝撃で、思わずビクッと奏多を引き離した。
俺は体を自分で起こしながら伏せ目がちでソファに手をついている奏多を見た。
それしか出来なかった。
「お願い……」
また……っ。
「……君の“お願い”は、俺を狂わせる……っ」
あの時だって、君から言われて俺は煩悩に負けた。
今もまた……負けそうだ。
「私、お風呂に入ってくるわ。少しだけ、待ってて」
声を、出せなかった。
いつにも増して君が艶やかに見えたから。
リビングから姿が見えなくなったところで、俺はドサッとソファに深く体を預けた。
ようやく息を吐けた。
一体、何が起こった?
いや、今なお何が起こっているんだ?
どうもおかしい。
今日の奏多は……いつもと違う気がしてならない。
何が違う?
………惑わされずに考えるんだ。
そもそもなぜ今日は家に上げたんだろう。
今日は何かの日なのか?いや、カレンダーには特には書きこまれてはいない。
では、何故……。
あの世界の話もなぜこんなにも……。
この家も関わっているから?
なぜだろう。
不意に……寝室に目がいった。
こうなるとまた勝手に体は動くもので、俺は再びあの部屋へと体を滑り込ませた。
手短にあった椅子をクローゼットにまで持ってくる。
いけないことだ。
だけども……気になってきた。しかもなぜ少し開いている。
手をかけると、心の中で彼女に謝りパッと開いた。
あの箱だ。
上を見上げると実際、見たことはないはずなのに確信できた。
あの中にあるはずだ。
なんせ……夢で見たものと同じ光景だったから。
これは俺の前世、井宿も見たことのある箱だ。
椅子に上り、箱を引っ張り下ろす。
リビングからの灯りを元に、その場で箱を開けた。
“ふしぎロマンス”
確かにそう、書かれてある本が入っていた。
この一週間、前世の話はほとんどしなかった。
奏多も特別語りかけてこないし、俺からも話すことはしなかった。
それなのに今日は、君から懐かしむように切り出される。
「正直言うとね、女誠国に行く頃のことなんだけど……あの時にはあなたのこと、好きだったんだと思うの」
「……まさか」
「なんでよ」
「泣いていたのだ」
「キスされて?」
「そう」
「もしかして、まだわかってない?」
頭を持ち上げて聞いてくるもんだから、首を傾げて見せた。
「ちょっと!やっぱりわかってなかった!」
「……俺からのキスが嫌だったんだと……それで俺も……」
「まさか、それで距離置いた、とか……言わないわよね?」
「…………」
「信じられない!!」
今思えばこのあたりからもうすれ違いだったのだと、話してわかった。
互いに意識していたのにそれに気づかないようにしていた。
俺はまた、人を好きになるとは思っていなくて……そして君は、自分を好きになる人がいるとは思っていなくて。
「君はもっと自信を持っていいのだ」
「自信?」
「何人の男が君にコロッといったかわかっているのだ?」
「それこそまさか!みんな年上が好きだったの?」
「冗談言ってる場合じゃないのだ。君だから……君という魅力に惹かれていくんだ。俺もその一人」
奏多の頬が、ぽっ、と頬が赤らんだのがわかった。
奏多も気づいたのだろう。
また頭を肩に持たれかけさせて、顔を見えなくした。
「信じられないのよ」
「うん、君はそう言うと思った」
「私は皆よりうんと上なのよ?」
「そうだね」
「それに……」
「それに本の中の人物……だから?」
「っ………」
「心配いらない。もう行くことはないから」
俺が行かせない。
君をまた……あの世界になど。
「え、ええ……そう、ね……」
奏多は言葉に詰まった。
俺はその本質に気づけなかった。
この世界は不思議だ。
俺がこうして、ここにいるのも奇跡に近いんじゃないかと思えてくる。
「本当に、よかったのだ。君とこうしていられて」
「……………」
不意に静かになった奏多に、首だけを動かして顔をのぞき込んだ。
目元はよく見えなかったけれど、口元が動いた。
「………ねえ……井宿」
「だ?」
前世の話をしているからだろうか。
もう、“井宿”と呼ばれることに、なんの抵抗もなかった。
姿は違っても、俺は……“井宿”なのだ。
「どうしたのだ?」
「今日……ほんとに泊まっていかない?」
………は?
「な、何を……っ、冗談じゃなかったのだ!?」
「イヤ?だめ?」
嫌とか、駄目とか、そんな問題ではなく……。
梳いていた手がピタリと止まるほど、俺は動揺していた。
どうしたらいいのだ?
これは試されているのだ?
「井宿……お願いがあるのよ」
「お、願い……?」
このセリフに息を呑んだ。
前にもオイラは……君の願いに惑わされた。
「な、なんなのだ……?君の願いは」
「………抱いて、ほしいの」
「ッ………」
あまりにも衝撃で、思わずビクッと奏多を引き離した。
俺は体を自分で起こしながら伏せ目がちでソファに手をついている奏多を見た。
それしか出来なかった。
「お願い……」
また……っ。
「……君の“お願い”は、俺を狂わせる……っ」
あの時だって、君から言われて俺は煩悩に負けた。
今もまた……負けそうだ。
「私、お風呂に入ってくるわ。少しだけ、待ってて」
声を、出せなかった。
いつにも増して君が艶やかに見えたから。
リビングから姿が見えなくなったところで、俺はドサッとソファに深く体を預けた。
ようやく息を吐けた。
一体、何が起こった?
いや、今なお何が起こっているんだ?
どうもおかしい。
今日の奏多は……いつもと違う気がしてならない。
何が違う?
………惑わされずに考えるんだ。
そもそもなぜ今日は家に上げたんだろう。
今日は何かの日なのか?いや、カレンダーには特には書きこまれてはいない。
では、何故……。
あの世界の話もなぜこんなにも……。
この家も関わっているから?
なぜだろう。
不意に……寝室に目がいった。
こうなるとまた勝手に体は動くもので、俺は再びあの部屋へと体を滑り込ませた。
手短にあった椅子をクローゼットにまで持ってくる。
いけないことだ。
だけども……気になってきた。しかもなぜ少し開いている。
手をかけると、心の中で彼女に謝りパッと開いた。
あの箱だ。
上を見上げると実際、見たことはないはずなのに確信できた。
あの中にあるはずだ。
なんせ……夢で見たものと同じ光景だったから。
これは俺の前世、井宿も見たことのある箱だ。
椅子に上り、箱を引っ張り下ろす。
リビングからの灯りを元に、その場で箱を開けた。
“ふしぎロマンス”
確かにそう、書かれてある本が入っていた。