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奏多が用意してくれた食事は、煮込みハンバーグだった。
あの短時間で作ったのか?と、感心した。
「煮込めばすぐ出来ちゃうから」
俺の知らない奏多のようだった。
確か、一緒に暮らしていた時はあまり得意そうには見えなかったからだ。
「さあ!どうぞ。お待たせしてごめんね」
「そんなこと気にしなくていいのだ。ありがとう。頂くのだ」
ナイフはすんなりと一切れ分に切り分けられた。
一口ほうばると君はまじまじと見つめてきた。
「どう…かな?」
「すごく美味しいのだ」
「ほんと!?」
もう自然に口から昔ながらの口調が飛び出る。
そんなことも気にならないくらい、目の前の食事が美味しかった。
「君は、料理が苦手かと……」
「失礼ね!ここには材料も道具も揃ってるんだから。レシピ本だってあるのよ!?」
ああ、そういう事か。
確かにあの世界とこの世界では、何もかもが違う。
「それに……井宿の作るご飯は美味しかったから甘えちゃった」
「ふ……そうだと思ったのだ」
思わず笑う声が漏れた。素直に嬉しい。
覚えているよ。作ったら君は、とても美味しそうに食べてくれた。
「私、井宿にあの時拾って助けてもらえて、本当によかった」
「奏多……」
食べていた手が、どちらからともなく止まった。
「ずっと、言いたかったの。ずっと、感謝してたのよ」
「……ああ、わかってる。ちゃんと、わかっているのだ」
敢えて、語尾を付け足した。
ちゃんとわかってる。
それは本心だったから。
それに、感謝という気持ちは俺にもずっとある。
それでも奏多は首を振った。
食事を終えると俺達はソファに肩を並べて座った。
今は、奏多が俺の肩に頭を持たれかけている。
珍しい。
奏多が甘えているように感じた。
「井宿」
「うん?」
「変な2人組から助けてくれて、ありがとう」
ああ、これは本当に初めて会った時のことだな。
「どういたしましてなのだ」
また髪に手を差し入れ、梳きながら言った。
「錫杖を突きつけられた時には、とても怖かったけれど……」
「あ、あれはオイラも警戒して……」
「でも、私の話を信じてくれてありがとう」
「………君が、嘘をついているようには見えなかったからなのだ」
思い返せば不思議だ。
あの頃の“俺”は、人と馴れ合うなんて……自分からはしないはずなのに。
「君は……いつでも放っておけないのだ。いると思っていた宿にいなかったときは、とても焦った。覚えているのだ?」
「……ええ、もちろんよ。私が美朱ちゃんや鬼宿、柳宿と会っていた時だわ」
「あの時、鬼宿とも会っていたのだ?」
「え?ええ……」
それは知らなかった。
気を探り、たどり着いた時には柳宿しかいないかと思っていた。
そうか。周りが見えていなかっただけか。
そこでも鬼宿と接触があっていたのか。
「思い返せば返すほど、鬼宿に……いや、自分に腹が立つ」
「井宿?」
「鬼宿が君に好意を寄せていることを知っていたのに、それを……自分は知ったこっちゃない、と黙認していたのだ」
「あ……」
「気を許しすぎた。鬼宿が……君にしたことを思い返すと……」
「ち、井宿……顔……顔が険しいっ!!」
自然に作り出した握りこぶしも、そっと奏多に解かれていた。
「……本当に……あの鏡で真相を見せられた時は……何とも言いようのない感覚に襲われたのだ」
奏多が鬼宿にされたこと……思い返すだけで自分の中にもこんな感情があるのかと驚く。
「ホントに~?」
「なぜそこで怪しむのだ」
「だって……それまでに井宿……“あれは術の一種なのだ”とか」
「!」
「“変な意味は無い”とか」
「う……い、いや……それは……」
言った。
確かにそんなことも言った。
自分を納得させるためとはいえ、言った言葉が彼女の記憶に残るほどだったとは。
「あれ、結構ショックだったの。たぶん、あの時から少しずつ変わっていったの」
「奏多……すまないのだ……」
奏多と話していると、まるでつい最近までやってきたのかと言えるほど、鮮明に記憶が蘇った。
それだけ彼女との生活は、自分にとって大きなものだったのだろう。
「君はよく……怪我をする人だったのだ……」
「井宿……」
「走ることさえも出来ないほどの運動音痴なのに」
「ちょっと」
「動きだって鈍いはずなのに」
「ちょいと井宿ー?」
「なのに、すぐに割って入って怪我を負って……」
「井宿……」
「馬からもすぐに落ちるし」
「……もう忘れてよ」
「忘れられるわけがないのだ。君はいつだって、必死だった」
「必死にもなるわよ。だって……」
「そう。君は知っていたから。オイラ達は君に護られていた。最初から」
護っているつもりだったけれど、護られていたんだ。
いつだって。
あの短時間で作ったのか?と、感心した。
「煮込めばすぐ出来ちゃうから」
俺の知らない奏多のようだった。
確か、一緒に暮らしていた時はあまり得意そうには見えなかったからだ。
「さあ!どうぞ。お待たせしてごめんね」
「そんなこと気にしなくていいのだ。ありがとう。頂くのだ」
ナイフはすんなりと一切れ分に切り分けられた。
一口ほうばると君はまじまじと見つめてきた。
「どう…かな?」
「すごく美味しいのだ」
「ほんと!?」
もう自然に口から昔ながらの口調が飛び出る。
そんなことも気にならないくらい、目の前の食事が美味しかった。
「君は、料理が苦手かと……」
「失礼ね!ここには材料も道具も揃ってるんだから。レシピ本だってあるのよ!?」
ああ、そういう事か。
確かにあの世界とこの世界では、何もかもが違う。
「それに……井宿の作るご飯は美味しかったから甘えちゃった」
「ふ……そうだと思ったのだ」
思わず笑う声が漏れた。素直に嬉しい。
覚えているよ。作ったら君は、とても美味しそうに食べてくれた。
「私、井宿にあの時拾って助けてもらえて、本当によかった」
「奏多……」
食べていた手が、どちらからともなく止まった。
「ずっと、言いたかったの。ずっと、感謝してたのよ」
「……ああ、わかってる。ちゃんと、わかっているのだ」
敢えて、語尾を付け足した。
ちゃんとわかってる。
それは本心だったから。
それに、感謝という気持ちは俺にもずっとある。
それでも奏多は首を振った。
食事を終えると俺達はソファに肩を並べて座った。
今は、奏多が俺の肩に頭を持たれかけている。
珍しい。
奏多が甘えているように感じた。
「井宿」
「うん?」
「変な2人組から助けてくれて、ありがとう」
ああ、これは本当に初めて会った時のことだな。
「どういたしましてなのだ」
また髪に手を差し入れ、梳きながら言った。
「錫杖を突きつけられた時には、とても怖かったけれど……」
「あ、あれはオイラも警戒して……」
「でも、私の話を信じてくれてありがとう」
「………君が、嘘をついているようには見えなかったからなのだ」
思い返せば不思議だ。
あの頃の“俺”は、人と馴れ合うなんて……自分からはしないはずなのに。
「君は……いつでも放っておけないのだ。いると思っていた宿にいなかったときは、とても焦った。覚えているのだ?」
「……ええ、もちろんよ。私が美朱ちゃんや鬼宿、柳宿と会っていた時だわ」
「あの時、鬼宿とも会っていたのだ?」
「え?ええ……」
それは知らなかった。
気を探り、たどり着いた時には柳宿しかいないかと思っていた。
そうか。周りが見えていなかっただけか。
そこでも鬼宿と接触があっていたのか。
「思い返せば返すほど、鬼宿に……いや、自分に腹が立つ」
「井宿?」
「鬼宿が君に好意を寄せていることを知っていたのに、それを……自分は知ったこっちゃない、と黙認していたのだ」
「あ……」
「気を許しすぎた。鬼宿が……君にしたことを思い返すと……」
「ち、井宿……顔……顔が険しいっ!!」
自然に作り出した握りこぶしも、そっと奏多に解かれていた。
「……本当に……あの鏡で真相を見せられた時は……何とも言いようのない感覚に襲われたのだ」
奏多が鬼宿にされたこと……思い返すだけで自分の中にもこんな感情があるのかと驚く。
「ホントに~?」
「なぜそこで怪しむのだ」
「だって……それまでに井宿……“あれは術の一種なのだ”とか」
「!」
「“変な意味は無い”とか」
「う……い、いや……それは……」
言った。
確かにそんなことも言った。
自分を納得させるためとはいえ、言った言葉が彼女の記憶に残るほどだったとは。
「あれ、結構ショックだったの。たぶん、あの時から少しずつ変わっていったの」
「奏多……すまないのだ……」
奏多と話していると、まるでつい最近までやってきたのかと言えるほど、鮮明に記憶が蘇った。
それだけ彼女との生活は、自分にとって大きなものだったのだろう。
「君はよく……怪我をする人だったのだ……」
「井宿……」
「走ることさえも出来ないほどの運動音痴なのに」
「ちょっと」
「動きだって鈍いはずなのに」
「ちょいと井宿ー?」
「なのに、すぐに割って入って怪我を負って……」
「井宿……」
「馬からもすぐに落ちるし」
「……もう忘れてよ」
「忘れられるわけがないのだ。君はいつだって、必死だった」
「必死にもなるわよ。だって……」
「そう。君は知っていたから。オイラ達は君に護られていた。最初から」
護っているつもりだったけれど、護られていたんだ。
いつだって。