ある日の出来事【旺牙の気苦労】
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ある日の夕暮れ時。
「なん、やて……?」
「だから……ないって言ってんだよ。旺牙ってほんとしつこいよなー」
その一言で、夕飯を食べていた周りの者達が騒ぎ始めた。
「お、旺牙はん!オレのあげますさかい!」
「……食いかけなんていらへん」
「旺牙はん!!」
「南央はーん!ホンマにもうないんか!?」
「ないよ。ほら、空っぽだろ」
そう言って私は見せる。
空になったおしるこが入っていたであろう鍋を。
本日のデザートだ。
「………………」
「ひぃ~~っ!!終わった!終わったでぇ!!」
「オレ、今日旺牙はんと夜番やあ………」
「オレもやぁ~!!」
「お前らのことは、忘れへんぞ!!」
なんだ、こいつら。
大げさだな。
でも、彼らにとってはとても大問題だったらしい。
旺牙におしるこがあるかないかで、どうやらその日の夜は変わるらしい。
おしるこを食べた日は、とても穏やかに夜番も終わっていくらしい。
でも、それがない今日はどうだ。
食べられると思っていたものが、目の前でなくなったのだ。
そう。荒れるらしい。文字通り。
見回りという名の鍛錬が始まるらしい。
「……たく、しょうがないな」
すでに夜番には出かけてしまっている。
巻き添えを食った奴らには諦めてもらうとして、私は再び厨房にこもった。
「旺牙ー、いいもん持ってきてやったよー」
「!!!」
夜番から帰って来ているのはわかっている。
なんせさっき、ヘトヘトになって帰ってきた連中を見かけたから。
勢いよく扉を開けると、そこにはまさに着替えをしていた旺牙がいた。
ほらな、帰ってきてた。
「これ、やるよ」
「あんたはこの状況、丸無視か?」
「なに?何の状況だって?」
旺牙は諦めたのかため息をつくと、そのままこちらに近づいてきた。
「風呂入ってこいよな。におうよ?」
「今は頭が使ってる。俺らはあとだ」
「ああ、そうか」
どこまでも忠実なやつ。
「なんだ、それ」
「ああ、これ、“みたらし団子”って言うんだよ」
「へえ……」
お、食いついた。
旺牙が私の手に持っていた皿に顔を近づける。
目の前にツンツンとハネている黒髪が落ちてきた。
「甘そうだな」
「砂糖入ってるからね。でも、どっちかと言ったら甘じょっぱい?」
「よく作れたな」
「ふ、こんなん朝飯前だね」
団子は竹串に刺してある。
旺牙がそれを手に取ると、あむっと口に入れた。
「どうよ」
「……悪くない」
「うまいって素直に言えよなー」
「美味い」
やっぱり素直!!
初めから言やあ、もっと可愛げがあるのに。もったいない。
「おしるこの詫び。今日はごめん。配分間違えた」
「…………」
旺牙がモグモグと口を動かし、唇についたみたらしの餡を舐めとる。
それまで言葉を発することなく、ただ、じ……とこちらを見られた。
「な、なんだよ」
「あんたが謝るなんて……明日は嵐だ」
「おい……」
「もういい。だが、次は許さない」
「……はは。覚えとくよ」
“許さない”と言った時の目が本気だった。
こいつ、根に持つタイプだな。
一番に取り分けとこう。
きっと皆もそれを望むはずだ。
それにしても……
目の前にいる旺牙ときたら、上半身に何も着ていない状態だ。
なんなんだ、これは。
一体どうしたら、そうなる。
無駄のない締まった身体。
それは、どこになんの筋肉があるのかわかるほど鍛え上げられている。
「私ももっと鍛えたら、そうなるかな?」
「あ?」
「旺牙みたいなさ、体」
「………バカか、なるわけないだろ」
「バカって言うな!だって同じ稽古してんじゃん!」
「お前……あれだけで俺が何もしてないと思ってるのか?」
「え!?あの後もしてんの!?」
驚きの顔を向けると、盛大に呆れられた。
そして、服を手に取ると、それを羽織って前で留めた。
こいつのいつも着ている、黒いピタッとした服とは違って、翼宿が上着の下に来ているようなラフな服だ。
「あんたは今の稽古量で充分だ。無理してもいいことはない」
「やらなきゃ筋肉つかないだろ!!」
「充分、締まってきてる。それ以上は支障が出る」
「むぅ………」
どう見ても私の体つきは、旺牙やここの連中とは作りが違う。
それでも……もう少し頑張れば!
「まさか……自分は男だと思ってないだろうな」
ため息混じりの声に、私はとりあえず笑って見せた。