ある日の出来事【旺牙の気苦労】
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厲閤山に住まわせてもらって、はや数ヶ月。
最近、やたらと旺牙が口うるさくなった。
「あんた……なめてんのか」
「は?」
ほら、今日だって朝っぱらからこれ。
こっちは大人数の朝飯を作り終えてどっと疲れているところにこれだよ。
「旺牙こそ、朝会ったらなんて言うんだ?そこは“おはよう”だろ」
「その会話をしたかったら先になんか羽織れ」
そう言いながら、すでに手に持ってた手拭いを私に放り投げる。
「ちょ!何すんだよ!しかもこれ、お前の汗拭いたやつだろ!?朝の鍛錬後なんだろ!?」
「うるさい。さっさとなんか羽織ってこい。飯食いにぞろぞろ上がってくるぞ」
だからそれがなんだって言うんだ。
未だに渋ってると、旺牙が身長的に私の二の腕を掴みかかる。
でもすかさずピタッと止まると、でかい手が私の手を掴みあげる。
「んな!?なにすんだ!!」
「チッ……面倒なヤツ………」
そう小さく吐き捨てられると、掴む手と比例して乱雑にズンズン歩き出す。
「え、ちょっ……ほんとに何!!」
これからの仕事だってたんまりあるって言うのに、どこに連れてく気なんだ!
思いがけず引っ張られたことで数歩進んだけど、ぐいっと進行方向とは逆に力を入れて踏ん張った。
「何の真似だ」
「おい!その言葉そっくり返してやる!」
互いに睨み合う。
そんな睨み合いも無意味で、一瞬でまた旺牙に引きずられるように歩かされた。
くっそ、馬鹿力め!!
「なんか着てこい」
ポイッと部屋に入れられたかと思うと、扉が閉まった。
ここは、私の部屋だ。
「な、なん……なんなんだよ」
慌てて扉に手をかける。
「げっ……なんで開かな……っ」
「服を着るまでそこから出るな」
扉の向こうで旺牙の声が聞こえる。
これを開けなくしているのはあいつか!!
「ったく……なんだって言うんだ……服、って言ってたな……」
今日は朝から暑かった。
朝飯の用意をしてたら更に暑くて……だから……何したっけ。
あー、上着脱いだんだった。
「………まさか、腕も出しちゃいけない、とか言うんじゃないよな……?」
自分の姿を見れば、普通に服は着てる。
着てるものの……腕の袖はない。いわゆるタンクトップだ。
何着かここにある服をもらったらデカくて、袖が長いもんだし暑さも相まって、ジョッキン、と切り落とした。
その服を今日は着ていたんだった。
「……ねえ、旺牙」
まだそこにいるだろう旺牙に声をかけてみる。
「……なんだ」
「まさかと思うけどさ、腕出てるから服着ろって言うんじゃ……ないよね?」
「当たり前だ」
即答!?
いや、だって……夏にはノースリーブとか、キャミソールとか着るじゃん!?
暑いし、着るじゃん!?
………この世界、恐るべし………。
とは言っても、ここで上着を着なければ永遠にでれなさそうだ。
あいつはしつこいからな。
「はいはい、わかりましたよー」
私は仕方なく服を変えて、もう一度声をかけた。
私の姿を見るや否や、「早く飯くれ。腹減った」と言った。
だったらあのままで良かったじゃんか!!
そしてまた……。
「あんた……なめてんのか」
………ほら、またこれだよ。
「な、なんだよ。今、休憩中なんだけど」
昼過ぎ。
稽古も終わり、夕飯までのくつろぎタイムだ。
いい天気だし、中庭でゴロンと横になっていた。
そんな時に、こいつは……またやってきた。
上着は着てるって言うのに今度はなんだろう。
「んなとこで寝るな。大の字になるな。おい!足を上げるな!」
うるさ………。
起き上がろうと足を持ち上げて反動をつけた。
それだけでこれだ。小姑か。
「あ、なんか虫入った」
「!!」
足にもぞり、とした感覚。
裾をまくって出そうと試みる。
さすがに噛まれでもしたら厄介だ。
「あれえ?どこだ?」
居場所がわからない。
だけど、どこかにいる。
ぺら……
「!」
ぺらぺら……ひらひら……
「おい!!そこだ、そこ!!」
「え?どこ?」
ぺらあ……
「くそっ……じっとしてろ!」
旺牙が身を屈めたかと思うと、膝の後ろからサッと取り去った。
「なんだー、そこか」
「裾をおろせ。早く」
ほんと、口うるさくなったもんだ。
なんてことないことだと思ったんだ。
だって、こんなガサツな女……誰も気にかけないって思うだろ?
今までそうだったんだ。
だからこの世界に来た所で、なんも変わらないと思ってたんだ……。