ふしぎラビリンス~番外編~
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「おい」
朝ご飯の片付け中、声をかけられて顔を上げた。
「なに?」
見るとそこには旺牙の姿。
旺牙に特別変わった様子はなく、ただ小さな袋からなにかを取り出した。
「?」
見る姿勢を取ろうととりあえず手ぬぐいで手を拭く。
向き直った瞬間、口に何かが押し込まれた。
「ふぐっ……ぅん!?」
「やる」
「!?」
いや、やるって何!?
いきなり何を食わされたんだ!?
「ちょっ……なに……うん?甘い……?」
「甘いだろうな」
「これ……アメ?」
「ああ。街で見つけてきた」
コロコロと口の中で動かす。
じんわりと甘さが口の中いっぱいになって、自然に顔が綻んだ。
「へえ、うまいじゃん」
「だろ?」
「でもこれ、この甘さなら旺牙も好きだろ?なんでくれたのさ。珍しい」
「……あんたが今日だって言ったんだろ」
「ん?今日?なんかあったっけ?」
と、言われて今日が何かを思い出す。
時期的に今日は3月14日。
巷ではホワイトデーとかだな。
そういや先月、ここの者たちに振舞ったことを思い出した。
チョコなんてもんは用意出来なかったから、蒸し饅頭やら、あんまん……それから、みたらし団子におしること甘いものづくしを用意した。
そのとき、言ったなあ……。
“今日は特別なんだ!だからここから好きなもんを食べろ!日頃お世話になってるからね。あ、来月はあんたらが私にする番だから!よろしくぅ!あはははは!”
………………。
今思うとわけわからんこと言ってたな。
「旺牙……あの時の会話、聞いてたのか。で、これを?」
「ああ」
……律儀!!!
あの場で話してた野郎どもは誰1人として記憶にとどめていないだろうに!
その場にいなかったであろうこいつが耳にしてて、尚且、覚えていたのか!!
「そっか……うん。ありがと。うまいよ」
「そうか」
口の中でまだコロコロと動かす。
アメかー。久しぶりに食べたかも。ここにもこんな美味しいものがあるんだな。
しかもこんな、駄菓子屋とかで売ってるおっきな飴玉なんて、本当に久しぶりだ。
これをあの旺牙が選んで買ってきたのかと思うと……可愛いじゃないか。
「でもさ旺牙、アメに込められる意味とか、知らないんだろ?」
「は?飴に何の意味があるんだ。飴は飴だ」
「や、普通の日ならそうなのかもしれないけど……特に、私の世界でこの間のお菓子のお返しにアメなんか気軽に返してごらんよ。勘違いされまくるよ」
「……どういう意味だ?」
これは昔、記憶していたこと。
「アメはね、“俺もお前が好き”って意味があるんだってさ」
「!!!」
あ、旺牙が固まった。
と思ったら、あご押さえつけられたーー!?
「んがっ……ちょ、何!?」
「返せ……今すぐそれを返せ」
「は、あ!?ふ、ざけんなっ……!!」
バッと手を振り払って後ろに下がる。
あ、あぶね……アメ飲み込むかと思った。
「それに深い意味は無い」
「わかってるってー」
「…………」
「あー、うまい。うまい」
「おい」
「いやあ、旺牙って私が好きなのかー」
「おい!!違うと言ってるだろ!今すぐ吐き出せ!!」
「え?やだよー、もったいない。あー、うまいなあ」
「くそっ……もう絶対、何もやらん」
旺牙は外套を翻して、ここから出ていった。
少しからかい過ぎたかな?
でも……面白いから、いっか!
コロコロと口の中で動かしながら、私はまた、仕事を再開した。
よかった。
旺牙が、マシュマロを仕入れてこなくて。
それに……もう絶対何もやらん、と言っている旺牙は、いずれ私に大きなものをくれる。
使いこなせるかはわからない、彼の……大きな力をーー。
調理場から姿を消した旺牙は、壁に寄りかかりながら小さな袋を取り出した。
そこにはまだ複数の飴が入っている。
「くそ……これにそんな意味があったなんて……」
小さく呟く旺牙の耳は僅かに赤らんでいた。
(マシュマロは“あなたが嫌い”、クッキーは“友達でいよう”、キャンディは“あなたが好き”より)
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