初めて触れたのは
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美朱と鬼宿をオイラの術で引き合わせた日のことだった。
倶東国にいる鬼宿は明日、救い出す手筈にした。
オイラと美朱が行く。
美朱だけなら特に問題は無い。そう思っていた。
だが、その日の夕食時。
柳宿と話す奏多に目が行った。
「今日は早く湯に浸かって、ちゃっちゃと寝ちゃいなさい。明日に備えないと」
「……………そうよ!」
柳宿の言葉に何かつぶやくと、勢いよく席を立った。また何か思いついたのだろうか。
「柳宿!私、寝るね!」
眠たかっただけか。
意識を外した。それがいけなかった。
どうして……あの時の行動を不審に思わなかったのだろう。
彼女という人がどういう人なのか、この時のオイラはまだ知らなかった。
暫くしてそろそろ部屋に戻ろうとした時、ふと違和感を覚えた。
なんだ……この感覚は……。
誰かが術を使っている?
まさか。
この者達の中にそんなことが出来る者はいない。
彼らはまだ若い。七星の中ではオイラが年長者。自分が手を回さなくてはと思える者達だ。
ならば、誰だ?
「まさか……」
「んぁ?どないしたんや?」
「やぁね、なに怖い顔してんのよォ」
未だ酒を飲む翼宿と柳宿がこちらを見てくる。
「……オイラ、部屋に戻るのだ。美朱ちゃんも早く休むのだ」
「うんっ。井宿、鬼宿に会わせてくれてありがとう!」
やはり、この巫女も幼い。
倶東国がどんな国なのかも、誰を敵に回そうとしているのかもピンと来ていない。
「会わせることができて良かったのだ」
上っ面だけで返事をすると足早に部屋を出た。
今はそんなことを思っている場合ではない。
どうにも気が落ち着かない。
どうして……奏多の気配がしない……?
「奏多、オイラなのだ」
扉越しに声をかける。
だが中から返答はない。やはり思っていたよりも事は大きくなっているようだ。
数珠に手をかけて、人差し指と中指を立てる。
「むっ」
気を高めればその扉はすぐに開いた。
奏多は寝台にいた。そこに確かに存在しているはずなのに、なぜだ。
なぜ、気配がない?
まるで魂がない肉体のよう……。
「奏多!!起きるのだ!!」
肩を揺らす。
起こすには少々強い揺れなのに、それでもピクリとも反応しなかった。
「どこだ……どこに行った……?」
ピッと額に指を置く。そこに意識を集中させて、彼女の気を探った。
ーーフッ……愚か者よ……。
「くっ………」
今の“気”は青龍七星士の……。
ビリッとする痛みが指先に走ると、思わず奏多の額から離した。
途端に奏多の顔が苦しみに歪められ、呼吸が荒くなり始める。
「奏多っ……しっかりするのだ!起きるのだ!!」
両肩を先程より強く揺さぶる。
頬も叩いて刺激を送る。それでも……彼女は苦しむばかりで、目を開けてくれなかった。
「………奏多っ!!」
さすがに焦りが見えてきた。
どうすればいい。どうしたら彼女を呼び戻せる?
「っ……ハァッ……、ハ…ァ……ッ、…………………」
「一体君はそこで……何をしているのだ……奏多!!!」
まずい。
呼吸が……息が弱くなってきた。
このままでは……。
そう思った時、オイラはある1つの行動を思い浮かべた。一度深く息を吐いた。
己の気を鎮める。
「………すまない…………奏多」
なんの詫びだったのか、わからない。
それでも……なぜは言わなくてはいけない気がして、そう口に出していた。
そして……オイラは奏多にぐっと近寄った。
未だ眠り続ける君の唇に顔を寄せる。
決して触れてはいけなかった唇に……触れた。