君との出会い
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「だから井宿も一緒に来てって言ったのに!」
まだ、オロオロと歩き回っている。それを手ぬぐいを持って仕方なく追いかけた。
「話はあとなのだ。とりあえず拭い……」
「来ちゃだめ……!!私、ノーブラ!!」
バッと背中を向けられてうずくまる。……今度は何なのだ。
腰まである髪がしゃがんだことで床につきそうだ。本当に世話の焼ける娘なのだ。
「そのままでいるのだ」
「だから来ちゃ……」
「ただ拭くだけなのだ!」
「うぷっ!」
頭に手ぬぐいをかけてわしゃわしゃと拭きあげた。背中に張り付いている髪を持ち上げる。
「何故、慌てて出てきてのだ?変な輩でもいたのだ?」
「その方がうんとマシね」
「…………」
……冗談で言ったのに思ってもない返事が返ってきた。
「お湯から上がって……服を着ようとしたら、ね……」
ようやく話し始めた。ここまで慌てふためいて走って戻ってきたのだ。怪しい者よりももっと恐ろしいものが襲ってきたのだろうか。
そうだとしたら……やはり付いていくべきだったか、と自分を責め始めた。
だけど……。
「私の目の前の壁の隅っこに……」
壁の隅?
「あ、あいつが……」
あいつ?
「は、8本の足のやつが……堂々といたのよー!!!」
……………。
「それは……まさかとは思うのだが……」
「ううっ……いるとは思ったのよ。古いもん、ここ……この世界にもそりゃいるわよ……」
ああ、やはりこれは……。
「蜘……」
「言わないでぇえええ!!!」
バッと振り返ってオイラの口を塞ぎにかかるが、反射的に動いてしまった。
「だ……」
しまった……。
彼女の両腕を握ればその体は正面を向いていた。
「……っ………ぎゃああああ!!」
………色気も何も無い声が耳を突き破っていく。
「う、うるさいのだ……」
「ブ……ブラ取ってきてぇ……」
「なんなのだ、それは」
そう聞いた時、この部屋の向こうから声がかけられた。ここの宿の者だろう。
オイラが出ると「奥方様のお忘れ物かと」と手渡される。
……奥方とかではないのだが……。
「今の人、なんだったの?」
「あ、ああ……これを君に、と持ってきてくれたのだ」
「私の服ー!ありがとう!!」
その中にお目当てのものもあったのだろう。とても嬉しそうに服を抱きしめていた。
「井宿、もういいよ」
部屋の外に立っていると中から声がかかった。着替えが済んだようだ。
「ごめんね、大騒ぎして」
「たった1匹の蜘……」
「だから言わないでったら!!」
「……言うのもダメなのだ?」
「ダメ。絶対……ダメ!想像するから」
もうすでに想像しているのか、その場で体をさすって落ち着こうとしている。
「他のは……そうでもないんだけど……あれはダメ」
「特別、害はないのだ」
「形状がもう無理」
「…………」
「井宿は平気?」
「オイラ?まぁ、現れたとして特になんとも思わないのだ」
「おおー!」
一気に表情が明るくなるのがわかった。今にして思えばこれが運のつき。
これが、オイラと君のはじまり。
fin.