ふしぎラビリンス8~翼宿の故郷~
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ちゅんちゅん……と可愛らしい音で目が覚めた。
「…………あれ?」
目を開ければ明るい日差し。
横になっていた体を起き上がらせる。
「うっ……い、てぇ……」
両肩が痛い。ああ、爪が食いこんだんだった。
肩に手を置くと、包帯でぐるぐると巻かれていた。愛瞳さん……だろう。どんだけ巻いたんだ。
今いる部屋を見渡すと、やはりここは愛瞳さんの部屋だった。
「起きたのだ?」
「!」
突然聞こえてきた声に、驚く声を出すことも出来ずビクッと肩を跳ねさせた。
「驚かせてしまったのだ?すまないのだ」
ひょこっと部屋に顔を出して、それから井宿が中に入ってくる。
手には白粥だろうか。まだ湯気の立ち上る器を持っていた。
「……井宿の気配は、いつも読めない……」
「オイラ、これでも術者なのだ。簡単に読まれては困るのだ」
「そういうもん?」
「そういうものなのだ」
コト……と器を台の上に置く。私はその井宿の腹部に目を向けた。
「昨日さ……」
井宿はすぐに察して、私に向き直った。
「君は操られていたのだ」
「………うん。でもさ……」
「自覚があったのだ?記憶はあるのだ?」
井宿がまじまじと見てくる。
「うん。覚えてる。私、井宿のお腹を蹴ったよね」
「あれは……」
「……蹴ったよね?」
「確かにあれはきいたのだ~」
井宿がこれみよがしに体をくの字に曲げる。
「ご、ごめっ……」
「冗談なのだ。君が足技もできるなら、それに越したことはないのだ」
冗談?井宿も冗談なんて言うのか。
足技……確かに旺牙も剣がダメな時は足も繰り出していた。私はそれを無意識にやっていたのか。
本当になんて力だ。
おかげで足にまで力が入らなくなったのも目を背けられない事実だ。
「昨夜のことは聞いたのだ。オイラ達が囮にまんまと騙されていなければ、こうはならなかったのだ」
「囮?」
「だ。結果、手荒な真似をして君を術から解くしかなかった。オイラが油断しなければ……」
その声がひどく弱々しく聞こえた。
何もそんなことはない。井宿が自分を責める必要はもっとない。
知らず知らず握りこぶしになっていた井宿の左手をぎゅっと両手で包み込んだ。
「南央?」
井宿が珍しそうに自分の手を見て、私に視線を向けた。
「違う。油断してたのは私。井宿が思いつめることなんてない」
「……………」
「あいつが何者か知った時、もっと気をつけてればよかった」
「それを君が言うのだ?旺牙の力を得てからずっと気を張り続けている君が?」
「私の意思で張り続けてたわけじゃないよ。強制的にだから」
私にしかわからないこともあるのに、私は気をつけていなかった。
完全に、油断してたのは私だ。
井宿から手を離して、今度は私が握りこぶしを作る。井宿はわずかにフッと笑って、私の手をやんわり広げた。
「その方が大変そうなのだ」
「…………」
広げられた手に、井宿が粥の入った器を乗せる。
「暫く様子を見ていたが操られている気配はない。それに、オイラも翼宿もいるのだ。気を休めていい」
「それが難しいんだけど……」
それでも数日前よりはまともだ。
眠れなくなるほど気になって仕方が無い、と言うのも治まった。
でも………。
「なんかやばい気がするんだ……」
ぽつりとつぶやいた。
昨日、襲いかかってきた魔物。あいつは……斂芳だ。
あいつが私に会いに来た。
それは……あいつに操られていた時の届いた声。
“また、会いに来るよ”
また、と言った。
今度も私を最初から狙ってきたのかもしれない。
「井宿。私ももう油断しないから」
「………南央……」
呟いて、井宿が持ってきた粥を食べ始めた。
うまい。いい塩加減だ。
「そう言えば、翼宿は?」
「お姉さんと薪を拾いに行ったのだ」
「そっか。井宿は何してんの?」
「君は昨日の今日で1人になっても平気なのだ?」
「え……?」
「君を護るために、ここにいるのだ」
………あ、そうだった。
「ごめん。手間かけて」
「いいや。別に構わないのだ。たまにはのんびりするのも悪くないのだ」
「井宿はいつものんびりしてる気がしてたよ」
「て、手厳しいのだ……」
困り顔で天井を仰ぐ。
でもこの流れる空気は嫌いじゃない。確かに、心安らぐ。
だけど……この平穏も、昼までだった。
昼になり、翼宿が戻ってきた。
それだけなら良かっただろう。
でも……翼宿たちの後ろから彼の顔が見えた。
そして……。
「ここが翼宿の家なのー?」
明るい女の子の可愛い声。
知っている。
“美朱”と、“
彼らがとうとうやって来た。
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